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水谷暁さん

おじさんです。

性別 男性
将来の夢 小説で小遣いを稼ぐこと
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仮面でデート

17/11/04 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:2件 水谷暁 閲覧数:112

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 遠藤理紀子は、店員がチーズバーガーとコーラを用意しているあいだ、店内をさっと見渡した。高校の制服を着ている客は、理紀子のほかにはいなかった。
 高校は近いが、部活動が盛んで、理紀子みたいな帰宅部∴は少数派なのだ。初老の女三人がおしゃべりしているのと、背広姿の男が、店の表に面したカウンター席で外を眺めている、それが客のすべてであった。
 同級生の甲矢荘介はまだ来ていない。
 理紀子はハンバーガーとコーラを乗せたトレーを受け取り、奥の二人用の席に向かった。背広の男が、ちらりと視線を向け、理紀子が椅子にかけるまで見入っていた。
 理紀子は身長が一七〇センチ近くもあり、プロポーションもいい。その男が興味を持っても不思議はなかった。
 理紀子は背広の男のことなど眼中になく、漫然と店の外を眺めながら、コーラのストローを口にくわえた。少しだけのどを湿してから、チーズバーガーをかじった。思わず「うぇっ」と小さな叫び声を上げてしまった。
 そのとき、ガラス窓の外に、髪の毛を金平糖の突起みたいに逆立てた男の姿がどアップで現れた。顔も奇抜でビジュアル系のプロレスラーみたいな派手なマスクで覆っている。一方、身長は一六〇センチあるかどうかで見栄えはしない。学ランを着ていて、ボタンがはち切れそうなほど胴回りが太い。背広の男が、今度はそっちに目を向けてぎょっとした顔になった。
 マスクの男は店に入ってくると、まっすぐ理紀子のテーブルにやって来た。
「なに、がっついてんだよ」
 男は、笑って理紀子を見下ろした。
「がっついてなんかないさ」
 理紀子は言い返した。
「包み紙の上からかじりついてたの見たぞ」
 理紀子は指摘されて、ちょっとうつむいた。考え事をしていて、包装紙をはがさずにかじってしまったのだ。
 マスクの男が甲矢荘介だった。パンクロックに邁進している。下校するなり、髪を固めてマスクを着けてのお出ましである。
 荘介は理紀子の向かいの席に座った。
「ところでさ、例のもの、どうかな?」
 荘介はさっきとは打って変わって声のトーンを落とした。
「できてる」
 理紀子は学生カバンからA4サイズの封筒を出して、テーブルの上に滑らせた。
「サンキュー」
 荘介は封筒から一枚の紙を取り出した。ワープロの文字がびっしりと書き込まれている。荘介は文面に視線を走らせた。
「さすが。文豪の卵」
 荘介はニッと笑って、理紀子を見た。
「俺の訴えたいことがばっちり書いてあるじゃん」
「付き合い長いからね。幼稚園からだもん」
 理紀子は皮肉を込めたつもりで言い放った。
「だけどね、これで何回目だと思ってるの?私の代筆したラブレターぐらいで、女の子は簡単になびかないよ。裸でどーんとぶつからないと」
 幼なじみのよしみで、これまで三度、荘介が熱を上げている隣の女子高生宛のラブレターを代筆してやっているのだ。
 わかってるさ、と荘介は口をとがらせた。
「ま、開き直れるんなら、マスクもやめられるんだろうけどさ」
 理紀子は追い打ちをかけた。荘介はよく言えばシャイ、悪く言えばノミの心臓なのだ。
「ずけずけ言ってくれるじゃん。とにかくサンキューな。礼をさせてもらうぜ。何がいい?」
「ダブルチーズバーガー」
 理紀子はほおづえを突いて言った。
「色気より食い気だね。注文しといてやるよ。俺は早速、ラブレターを渡しに行くから。今度こそうまくいくかなあ……」
 荘介はいそいそとして席を立つと、注文カウンターに寄ってから、店を出て行った。
 理紀子は、ガラス窓越しに、まりのような体躯で小走りしていく荘介を見送った。
 店員がダブルチーズバーガーを運んできた。理紀子は口をへの字に曲げて、食べかけのハンバーガーと、新しく来たそれを見下ろした。
「何が『色気より食い気』だよ。ばーか。やけ食いだよ。乙女心のわからん奴。あんたの良さをいちばん知ってんのは、私なのにさ」
 理紀子はぶつぶつ言いながら、ハンバーガーを手にした。
「カノジョ、ここいいかな」
 頭上に若い男の声がした。カウンター席にいた背広の男が移動してきていた。二十代前半か。よく見ればイケメンだった。
 けれども今の理紀子の心は動かせない。
「おととい来な」
 啖呵を切ってハンバーガーにかぶりついた。


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このストーリーに関するコメント

17/11/05 霜月秋介

水谷暁さま、拝読しました。

鈍感というのも、罪なものですね(笑)
理紀子さんが、彼に宛てたラブレターを書く日も遠くないのかもしれませんね。面白かったです。

17/11/05 水谷暁

霜月様
さっそくお読みいただきありがとうございます。御礼申し上げます。

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