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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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秋風に揺れる楓眺め、君は何想う

17/11/04 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:6件 霜月秋介 閲覧数:305

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「今日は有難うございました。とても楽しかったです」
 感情が込められていないような顔と口調で、彼女はそう告げた。そして僕の前から姿を消した。紅く染まった楓が舞う、秋の夕暮れのことだった。

 わかっていた。僕に対する特別な感情など、彼女には始めから無いことくらい。

「私のことは、カエデと呼んでください」
 彼女と初めて出会ったとき、彼女はそう言った。ある店で彼女を見て、一目ぼれをした。そして彼女に声をかけて、それから彼女と僕は付き合うことになった。
 それからカエデと、いろんな場所へ行った。面白いグッズが豊富にある店、おしゃれな喫茶店、ピッツァが美味しいレストラン、ゲームが豊富なゲームセンターなど、カエデはいろんな場所に詳しく、その場所へ行くための最短ルートを知っていた。今日上映される予定の映画のスケジュールも把握していた。普段から、いろんな場所へと行き慣れているのだろう。僕と会う以前から、今までいろんな男とデートをしてきたのかもしれない。そう思うと、少し胸が苦しくなった。
 デートの終わりに、紅葉が美しくデートスポットに最適とされる『くれない公園』を訪れた。そしてベンチに二人で座り、今日のデートを振り返った。
「今日のデート、いかがでしたか?自由にお答えください」
 彼女はまるで顧客アンケートを取るかのように、僕に事務的に尋ねた。
「楽しかったよ。普段ひとりでは行かないような場所に行けて、とても充実した一日だったよ」
「そうですか。嬉しい限りです」
 嘘は無かった。本当に充実した一日だった。今日一日を充実させるために、僕はこの『カエデ』をレンタルしたのだから。

 ウーマンズロボットレンタルショップ。そこは名の通り、女性型ロボットをレンタルできる店だ。留守中に家事をしてくれるロボットや、育児をしてくれるロボット、介護してくれるロボットなど、多種多様の品揃えだ。そこで僕は、『カエデ』を見つけた。
 そう、彼女はアンドロイドだ。一人では行きづらい、カップルまみれのデートスポットに一人で行って惨めな思いをしなくて済むように、二十四時間限定でレンタルできる少女ロボット。おまけに、ルートナビや周辺スポット検索機能つき。日本全国のどのお店にも詳しい。返却前に、レビューを彼女に伝えると、レンタル料が十パーセントオフになる。

「今日は有難うございました。とても楽しかったです」
 彼女が別れ際に放ったその言葉に、感情が込められていないことなどわかっていた。今日のデートで、彼女はずっと真顔のままだった。美味しいピッツァを食べても真顔、コメディ映画を観ても真顔、カメムシが顔に止まっても真顔で潰した。目の前にある紅く色づいた楓を見ても、おそらく何の感情も持たないのだろう。アンドロイドである彼女に、あらゆる『感情』を求めてはいけないことなど、僕が彼女を店で選んだときからわかっていたのだ。しかし彼女とデートをしているうちに、彼女に『笑顔』を求めている自分がいた。造られた笑顔ではなく、彼女の心の底からの、本当の『笑顔』を。

「あ、忘れてました」
 そう言って、一度僕に背を向けたカエデが、再び振り向いて僕に手を差し出した。僕に握手を求めているのだろうか。
「本日のレンタル料請求額、九千七百二十円になります」 


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このストーリーに関するコメント

17/11/07 泡沫恋歌

霜月秋介 様、拝読しました。

スピッツの「運命の人」という曲のフレーズに愛はコンビニでも買えるけれどもう少しさがそうよ”
という一文があります。
たぶん、安易に愛を求めてはいけないという意味だと、わたしは理解しています。
この主人公もレンタルアンドロイドに愛情を求めてはいけません。お金で買えるモノは所詮まがいものだから。
愛はレンタルするものではなく、種を蒔いて、自分で育てるもの、頑張って欲しいですね。

17/11/08 木野 道々草

拝読しました。主人公の期待は裏切られましたが、読み手の「この作家さんのインパクトあるラストシーンが読みたい!」期待を裏切らない展開が面白かったです。また、デートで相手の笑顔を求める主人公に共感しました。楓という秋の風情が織り交ぜられているのも、素敵だと感じました。

17/11/09 葵 ひとみ

霜月秋介様

拝読させて頂きました。

相変わらず、スコーンと見事に決まるオチが、霜月秋介様らしいです。

1日九千七百二十円・・・た・・・高い(笑)

1日九千七百二十円とデート費用と誰かさんの作品の1日500円のデート費用と

少し対照的ですね(苦笑)

17/11/13 冬垣ひなた

霜月秋介さん、拝読しました。

近未来の無情さと秋の情緒が違和感なく溶け込んでいて、不思議な読後感が残ります。
アンドロイドのカエデも、楓の樹も、心は持っていませんから、全ては人間側の感傷なのでょうか。そんなことを考えました。

17/11/21 霜月秋介

泡沫恋歌さま、コメントありがとうございます。
子供の頃から、スピッツ「運命の人」のそのフレーズに疑問を抱いておりましたが、まさにその通りだと思います。

木野 道々草さま、コメントありがとうございます。
インパクトのある終わらせ方をする作家さんに憧れていまして、そう言っていただいて大変嬉しいです。秋が好きなので、秋を感じさせる話をいつか書いてみたいと思っています。

17/11/21 霜月秋介

葵 ひとみ様、コメントありがとうございます。
葵さまの書かれたワンコインデートに比べて、こちらは贅沢ですよね。しかしそちらのワンコインデートの方が、暖かみのあるデートが出来ていると思います(笑)人間同士なのですから。

冬垣ひなた様、コメントありがとうございます。

いくら完璧なアンドロイド相手のデートでも、人間同士のデートには敵いませんよね。不便さが感動を生むのですから。心を持った人間同士でデートをしたいものです。

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