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文香さん

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初恋デート

17/11/04 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 文香 閲覧数:72

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 時は大正。西洋と和の文化が入り乱れ、混ざり合い日々変わっていく日本。この時代の令嬢たちに恋愛の自由はなく、爵位を持つ家柄は家の為の結婚が多い。卒業後に結婚する者もいれば、在学中に結婚が決まり女学校をやめて嫁ぐ者も少なくはない。
 今年で十五歳になる私も、そう遠くはない未来に、父が結婚相手を決める日がくるのだろう。
 ある日、女学校で仲良くしていた女生徒が結婚の為に学校をやめるのだと知った。別段珍しいこともない。その女生徒の父は結婚が決まって喜んでいる様だが、肝心の当人は浮かない顔をしている。どうやら年が十も上で、おまけに器量が良くないらしく、せめて器量がよければ恋することも出来たかもしれないのに、とため息を吐いていた。私はそうね、と彼女に同情したが、果たして器量が良いだけで恋が出来るのかと疑問を抱いた。
 私もいずれは父の決めた結婚相手の為にその後の生涯を捧げることとなるだろう。これが爵位ある令嬢であるが故に仕方のないこととはいえ、やはり気は滅入る。
 私とて恋に恋する年頃だ。恋をして、愛しい人と結ばれることに憧れを持っている。
 あぁ、どこかで運命の出会いというものをしてみたいわ、と恋愛小説を読んではそう思わずにいられなかった。

 私の父は物書きをしている。興味がないので読んだことはないのだが、父を訪ねて来る者が多いことを考えるとそれなりに人気があるように思う。来る者たちは大抵が父よりも若く、将来物書きになりたいという若者が多かった。
 私が父の娘であると分かると軽く会釈はするが、それ以上に関わり合うことはない。父もわざわざ私に紹介などしたこともない。私ではなく父に会いに来ているのだから当然だ。
 しかし、彼は違った。どういう風の吹き回しか、父は私と彼を会わせたのだ。彼は学校で教師をしているが、いずれは父の様に物書きに専念したいのだと言っていた。彼はとても優しく素敵な顔立ちで、私はひとめで恋をしていた。
 そして私は気が付いた。もしかして、彼は私の結婚相手ではなかろうか、と。父に男性を紹介されるということは、それはつまり結婚相手に違いない、と私は決めつけた。恋した相手と結婚が出来るなど、なんと私は幸せ者なのだろうか。彼のことを思うだけで、胸の内がこんなにも幸福に満ちあふれる。日に日に恋心は募るばかりで、胸が張り裂けてしまいそうだ。
 彼に話しかけられるだけで、頬は紅潮し心臓が痛い程に脈を打つ。彼は私の恋心に気がついているのだろうか。いつこの心の内を打ち明けて良いのだろうか、と逡巡する。そして、思うのだ。やはりこれは父から正式に結婚相手だと宣言してもらってからの方が彼にとっても良いことだろう、それまでは私もこの胸の内を告白せずにいようと心に誓った。
 しかしながら、物事はそう思惑通りにはいかないもので、私はすぐに思い違いをしていたということを悟った。
 彼は言った。私ではない誰かと結婚をするのだと。私は震える唇で祝いの言葉を述べるのが精一杯だった。私はちゃんと笑えていただろうか。ひきつった、ひどい顔をしてはいなかっただろうか。
 なんだ、全て私の勘違いだったのか。一人で浮かれていたとは、なんと愚かしい。あぁ、胸の内をこぼさずに秘めていて良かった。それだけが救いだ。しかし、募ったこの恋心をどう捨てれば良いのか、初めての恋心は一体どうしたら良いのか、検討もつかない。誰かに相談出来る話でもない。私の教本は恋愛小説しかないのだから。
 あぁ、そういえば失恋の話があったなと思い出した。失恋の話は好きではないので、一度読んだきりだったのだが、私は再び失恋の本を手に取った。馬鹿みたいに失恋した主人公に同調してしまい、読みながら涙が止まらなかった。
 後日、私は彼にひとつのお願いをした。洋菓子を買いに行ってみたいので、一緒について行ってはくれないか、と。頼めば彼はいつもの優しい笑顔を私に向けて快く了承してくれた。
 初めて彼の隣を歩く。他愛の無い会話をして微笑みを浮かべても、ちゃんと笑えているか不安になる。相変わらず心臓は痛い程に脈を打っている。もう二度と彼とこの様に外を出歩くことない出来ないのだから、しっかりと心に刻み込むのよ、と己を叱咤した。
 洋菓子など食べたい訳でも欲しい訳でもない。ただ、恋愛小説の中では仲睦まじい男女が買い物や喫茶店などへ向かうことをデートと表していた。彼とは恋愛関係ではないけれど、これがきっとデートというものなのだろう。

 さようなら、私の初恋。これが最初で最後のデートとなるでしょう。


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