1. トップページ
  2. デートは太陽の下で

小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

投稿済みの作品

0

デートは太陽の下で

17/11/03 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 小峰綾子 閲覧数:144

この作品を評価する

朝7時の待ち合わせに、彼は4分ほど遅れてやってきた。私たちがデートするのはいつも朝。

慎吾と私は元々職場の先輩後輩だった。私の一方的な片思いだったのだが何度か「ご飯食べに行きません?」とめげずに誘っているうちに向こうが応じてくれた。あともう一押しで付き合えそう、そんな風にノー天気に思えていたのだからつくづくお気楽だったのだなあと思う。

慎吾ができちゃった結婚すると聞いたときはさすがに驚きとショックで倒れそうにはなった。所詮私は遊ばれていただけなのだ。

それなのに、今は月に2回ぐらい、こんな風に朝のデートを続けている。

最初は、仕事が終わった後会社から少し離れた駅の暗めのバーで飲んでいた。
でも、夜はいけない。割り切っているつもりでも、彼が帰らなきゃいけないことを思うたびに胸が締め付けられる。終電の時間が近づくたび「帰らないで」と言ってしまいそうになる。
彼の家庭を壊すつもりはないのだ。私だってこれからちゃんとした相手を探してちゃんとした恋愛、誰にも反対をされることのない相手と結婚するのだ。

でも、夜の暗さ、深さと酔いが互いを狂わせる。もう後戻りできないところまで私たちを簡単に連れて行ってしまいそうになる。

もう会うたびに辛いので、やめよう、そう言おうと思っていたある日彼は言った。

「次からは、明るい時に会おうか」

私たちのデートは、仕事の前か土日の朝となった。彼は平日の朝は「早めに行って片づけたい作業がある」、土日は「ゴルフの打ちっぱなしに行く」とかなんとか言って出てくるらしい。私の方は一人暮らしなので融通は効く。いつも奥さんに不審に思われないタイミングで連絡をくれる。待ち合わせの日時と場所を決めるのはいつも慎吾だ。

「おはよう」慎吾がはにかみながら笑う
「おはよう」私も笑顔で応える。朝の光に照らされ、おはようという言葉の健全さに圧倒されそうになる。

今日は天気も良いのでカフェのテラスで朝食を食べることにする。彼はスモークチキンのサンドイッチとオレンジジュース。私はエッグベネティクトとホットティー。

「今日は娘さんは?」
「まだ寝てたよ。今日は俺が公園に連れていくことになってる。」

慎吾の娘はもう3歳でやんちゃ盛りらしい。普通に娘さんの話をしたり写真を見せ合ったりするなんて、夜に会っていたころは考えられなかった。

「最近そっちの部署の仕事はどう?」
「うーーん。この間話した後輩が、やっぱりね。できない子ではないと思うんだけど同じ失敗を繰り返すし確認しないし、どうしたらいいんだろうね」
「中野も後輩のことで悩むようになったと思うと感慨深いよなあ。」
「なんだかんだで5年目だからね。もう新人じゃないんだよ」

新人の頃を覚えている慎吾はまだまだ私が右も左も分からない新入社員だったころのイメージが強いようだ。私なりに、彼との関係で悩み、仕事で苦労し、ようやく今のように安定して過ごすことができるようになったというのに。慎吾は全くピンときていない。
自分の見えてるものがすべてだと思いがちなのだ。

彼が奥さんのことを「ぼんやりしてるし俺のことは全面的に信用はしてるみたい。ほかの女の子と会ってるなんて思いもしないだろうなあ」というのだが。それも怪しい。彼が見ていて、知っていると思っている奥さんと、実際の姿は違うかもしれない。

「女性はそういうところの勘は鋭かったりするのだから気を付けて、スマホを何かの拍子に見られるとか」
「あいつはそんなことしないよ」と言ってまた笑う。
やっぱり私の意図したところを分かっていないのだ。

何でこんな人が好きなんだろうなぁ。とは思う。私に中途半端に手を出しながらも元々付き合っていた彼女とはできちゃった結婚するようなやつ。こんなはずじゃなかったなあ。それでもなんだかんだ顔が好きなのと、笑顔にやられてしまう。

空には雲がゆっくりと流れている。そのあとは仕事の話や、最近見たDVDの話、読んだ本の話、つまりはとりとめのない健全な話をして時間を過ごした。

10時になったので、娘さんと出かけるのに間に合うように慎吾は帰って行った。
朝だからと言って別れるのが辛くないわけではない。やっぱり、ちょっと苦しい。でも、こんなに明るい空の下、「帰らないで」「寂しい」という言葉は青空に吸い込まれ、消えてしまう。太陽が見ている下では私たちは後ろめたいことができないのだ。

彼を見送った後、日曜の朝10時に解放された私は、目の前にある白紙の一日について考える。家に帰って洗濯をしようか、それとも久々に美術館にでも行こうか。

こんな朝のデートをなんだかだらだら続けてしまう。二人とも駄目なやつなんだなぁ、と思う。それでも、私は朝に見せる彼の笑顔がやっぱり好きなのだ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン