1. トップページ
  2. 次に逢うなら

待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

次に逢うなら

17/11/03 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:186

この作品を評価する

 よく晴れた日は年老いた夫婦揃って一緒に公園に行くのが、私と妻の習慣だった。
「うぅ、寒い」
 妻が震えながら言う。
「もっと厚着をすれば良かっただろう」
「こんなに寒いと思わなかったわ」と妻がマフラーを首に巻く。
「歩いている内に体も温まるさ」
 道行く人と挨拶を交わしながら妻は歩く。十五分ほどで公園に着き、日当たりのいいベンチに腰かけた。
「ここが空いていて良かったわ」
「このベンチは日当たりが良くて暖かいからな。私もここが好きだ」
 妻は水筒に入れてきたほうじ茶をカップに注ぐと、それを置いて冷めるのを待つ。
「熱くて飲めないものね」
「冷ましてから淹れてくれば良かっただろう」
 前にもそう言ったことがあったのだが、「熱いのを淹れて、そこから湯気が出るのを見るのが好きなんだもの」と反論されてしまった。寒い日に湯気を見ていると幸せな気持ちになれるのだと言う。
 遊具で遊ぶ子供たちをしばらく眺めてから「そろそろ冷めたかしら」と傍らに置いていたほうじ茶を一口すする。美味しい、と微笑む横顔に私もつられて微笑んでいた。
 一息ついてから、妻が鞄から毛糸と編み棒を取り出した。孫に贈るマフラーを編むつもりなのだ。遅くに出来た孫なのだが、最近無事に公園デビューを果たしたという報せを受けた。妻は「風邪をひかせるわけにはいかないわ!」と張り切って編み物を進めている。
「今年は、私のマフラーは無いのだろうか」
 そんなことを問いかけてみる。去年までは編んでくれたのになぁ、と少し寂しく思いながら。
「あの、すみません」
 不意に声をかけられ、編み物に没頭していた妻がはっと顔を上げる。
「隣、座ってもいいでしょうか。昼を食べ損ねてしまって」
 スーツの青年がそこに立っていた。遅い昼休憩だろう、コンビニの袋を下げている。周囲のベンチは母親の集団が座っていて空いていない。
「ええ、連れもいませんので気にせずどうぞ」
 妻はにっこりと微笑み、二人掛けのベンチの一方を譲った。
 すみません、と青年が頭を下げ、私の体をすり抜けてベンチに座った。
「……まぁ、仕方ないよな」
 とひとりごちる。死んでしまっているのだから気付いてもらえないのは仕方ない。私は青年の背後をすり抜けて妻の隣に移動した。
「私はこっちに立っているからなっ」
 妻にも私の存在が見えたことは無いのだが、こうしてアピールせずにいられない。
「よろしければお茶をどうぞ」
 まだ使っていないカップを出して青年にお茶を渡すと、ありがとうございます、と人の好さそうな笑顔で礼を言われた。私もそのお茶が飲みたい。
 編み物を再開すると、青年がお茶をすすりながら「綺麗な色ですね」と妻に話しかけた。
「旦那さん? いや、明るい色だからお孫さんのかな」
「ええ」と妻は嬉しそうに返答し、「少しお話相手をして下さるかしら?」と問いかけた。
「もちろん」
「嬉しいわ。主人が亡くなってから独り言ばかり増えてしまって。たまには人とおしゃべりしなくちゃいけないって思ってたんですの」
 青年は嫌な顔一つせず聞いている。
「これは孫のなんです。子供は明るい色がいいと思って。主人のはね、こっち」
 鞄から深い紺色のマフラーを取り出した。
「この色が好きだったんですよ」
「持ち歩いていらっしゃるんですか?」
 青年の言葉に、妻は少し寂しそうな顔をする。
「本当は手放すべきなんでしょうけれど、どうしても出来なくって」
「……仲がよろしかったんですね。羨ましい」
「こうして持ち歩いているからなのかしら、何だか今でも主人がそばにいてくれるような気がするんです」
 あぁ、と私は言った。「ここに、いるぞ。いつもそばにいるからな」
「もしそうなら、素敵ですね」
「ええ――」
 お前がこちらに来るまでずっと見守っているからな――、としみじみした時だ。
「でもね」と力を込めて妻が言った。
「もし傍にいてくれたならそれはとても嬉しいのだけど、少し困ってしまうんです」
 ……え?
「えっ?」
 思いがけず私と青年の驚きが同調する。
「私ね、姉さん女房だったんです。年下の夫というのもね、私を引っ張って行こうと一生懸命な様子が可愛らしくて幸せだったんです。けれど無い物ねだりかしら、年上の男性への憧れもありまして」
「はあ」
「なので主人には早く成仏して転生してもらわなくては困るんです!」
 私のマフラーを握りしめる勢いで力説する。
「生まれ変わったらご近所の素敵なお兄さんになってもらって、それでまた恋を始めたいって思ってるんですもの」
 本当にマフラーを力いっぱい握りしめた妻に、青年は「……ごちそうさまです」と飲み終えたカップを渡して呟く。
 そして私はといえば、早く生まれ変わらなくては! とうららかな公園を後にして、慌てて天への道を昇り始めたのだった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/11/05 霜月秋介

待井小雨さま、拝読しました。

肌寒い時期には、待井さまの温かいお話ですね(笑)
読んでる途中で違和感を感じましたが、はじめからお祖母さんひとりだったのですね。
来世でもこの二人が無事一緒になることをお祈りします。素敵なお話を有難うございます。

17/11/06 待井小雨

霜月秋介様

お読みいただきありがとうございます。
おばあさんの独り言と、一方的に話しかける死んでしまったおじいさん。会話として噛み合っていないので違和感があるだろうなー、と思いながら書きました(汗)
来世は違う人と、とは思わずに相変わらず同じ人と恋をしたいという、バカップルのような老夫婦にしてみました。
暖かくなりたい時に寄り添えるような物語を書けていたら嬉しいです。

ログイン