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田中あららさん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 仏ほっとけ、神かまうな

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ノースマホ

17/11/03 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:2件 田中あらら 閲覧数:210

時空モノガタリからの選評

中年の自分であっても、ケータイやスマホのない時代にどうやって路線を調べ、人と待ち合わせていたのか不思議に思うくらい現在はスマホに頼り切りになってしまっていますが、昔の待ち合わせを懐かしく思い出しました。もちろん昔と今、どちらがいいとか悪いとかいうことはでないのでしょうが、人と出会えた時の安堵感や、良いお店を見つけた喜びに関しては確かに、データがなく確実性の薄い状況の方が、より鮮烈だったかもしれませんね。口コミ評価というのも必ずしもあてにならないところがあり、SNSなどのツールも案外疲れるもので、たまにはこんなスマホなしデートも新鮮なのかもしれませんね。中年の選考者には特に受けの良い作品でした。

時空モノガタリK

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 美沙は駅前のポチ公銅像の前で、悟が来るのをかれこれ30分ほど待っていた。腕時計に目をやるとすでに1時20分、約束は1時だった。いつもならラインで連絡を取るのだが、今日はスマホを家に置いてきたので連絡手段がない。ポチ公前には大勢人がいて、皆スマホの画面に釘付けだ。ぼーっと立っているだけなんて、なんと無駄な時間!と心の中でつぶやいた。その時不意に、背後から肩を叩かれた。振り向くと悟が笑っていた。
「やっと見つけたよ」
「え、いたの?」
「あー、あっち側にね」と言って、悟はポチ公を挟んだ向こう側を指差した。
「遅いから探しにきたんだけど、すぐ見つかってよかった」
 今日のデートに、美沙と悟はスマホを持ってこなかった。初めてのノースマホデートである。

 ことの始まりは、美沙と母親との会話だった。明日はデートだから夕食はいらないと言った美沙に、何時に待ち合わせなのと母親が聞いた。昼過ぎに駅あたりで会う予定と答えたところ母親は、スマホ頼りなのねと笑った。
 母親の話によると、携帯電話のなかった若い頃のデートといえば、何時にどこどこという約束だけを頼りに出かけた。一旦出かけると連絡手段はないので、緊急事態には対応できない。もっとも緊急事態などしばしば起きるものではないが、遅刻は日常的にありうる。どのくらい待つか、あるいは待たないかなどの個人による判断の相違は、友達同士で格好の話題となったという。不便な時代だったのねという美沙に対し、母親は、そうでもないのよと答えた。
「結婚前、お父さんはデートの時、必ず時間より早く来ていたものよ。本を読みながら私を待っている姿がかっこよくて、しばらくその姿を遠くから眺めたりしてね」
「きもっ」
「ふふ。でもね、一度お父さんが遅れて来たことがあったの。どうしたのかしらと心配でそわそわしたわ。来た時は嬉しかった。今じゃ考えられないわね」
「会うまでにも、ドキドキ感があるってことね。ごちそうさま」
「そういうこと。それにあの頃は、きちんとお互いのためにだけに時間を作っていたのよ。今は、デート中でもスマホを見て、ほかの人とやりとりしたり、世界中に自分の所在や食べたものを公開しているんでしょ。バカみたいだと思うけど」
「時代が違うのよ」
 そうは言ったものの、美沙は母親の話に興味をそそられ、悟にノースマホデートを提案したのである。
 
 美沙は悟に会えて安堵し、自分でも驚くほど喜んだ。そして手を離すと迷子になるとでもいうように、二人は手を繋いで歩いき、遅いランチを食べる場所を探した。口コミなどの評価は未知だが、感じの良いカフェに入り、ランチメニューの豊富さと手頃な値段、配慮の行き届いた美味しい料理を口にした。
「このカフェ、絶対に高評価よ。帰ってから調べてみるわ」いつもなら、ネットの口コミで評価の高いところを選ぶ美沙は、自分の入ったカフェの評価が気になって仕方がない。
「他人の評価なんて関係ないだろ。美味しいんだから」と悟は笑った。

 ランチの後は行き慣れた大型ショッピングビルで、悟はいつものように、最上階にある本屋に足を向けた。そして美沙は、トートバッグを探して回った。数軒目に、仕事にも使えそうな粋なトートバッグを見つけて買った後、美沙はハッとした。別行動するときには、30分後にこことか、あの店とか決めておくのよ、と言う母親の言葉を思い出した。待ち合わせの場所と時間を決めておかなかったのだ。
「うそでしょう」思わず口に出た言葉に、通りすがりの女の子が振り返った。視線に気づいた美沙はわれにかえった。そして悟は本屋にいるという思いが頭に浮かび、その思いにしがみつくことによって落ち着きを取り戻した。悟が建築関係の書棚の前で立ち読みしている姿が頭に浮かび、そこにいるに違いないと確信した。しかし彼はいなかった。書店の中を歩き回り悟の姿を探したがどこにもおらず、美沙は途方にくれた。
 そして本屋の外のベンチに腰掛け「もう、どこ行っちゃったのよー」とつぶやいた時、店内放送が耳に入った。「〇〇市からお越しの△△様、お連れ様が××売り場でお待ちでございます」おー、その手があったか!と美沙は立ち上がり、本屋のレジに向かった。

 繁華街の裏通りに、洒落たのれんのかかった小さな居酒屋があった。着物を着た母親ぐらいの歳の品のいい女将に、悟と美沙は今日の出来事を話した。
「それで、店内放送をしてもらったのですね」と女将が聞くと、「トイレでその放送を聞いたんです」と照れくさそうに悟が答え、「でも、スマホを持っていたら、こんな素敵な店に出会えなかったな」と付け加えた。
「ほんとに。帰ったら、この店の口コミと高評価入れておきます」と美沙が言うと、「それは勘弁してね。このままで十分ですから」と、女将は微笑んだ。


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このストーリーに関するコメント

17/12/05 光石七

入賞おめでとうございます!
拝読しました。
二人のノースマホデートにほのぼのしました。
アクシデントもあったけれど、互いを再認識でき、いいお店にも出会い、いい思い出になったのではないでしょうか。
素敵なお話をありがとうございます!

17/12/05 田中あらら

光石七様
課題が「デート」と知った時、あまりにも縁がないので一瞬ひるみました。苦肉の策で昔のデートとの比較を描いたところ、思いがけず入賞したので驚きました。
温かいコメントをありがとうございました。

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