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和倉幸配さん

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渾身のスイング

17/11/02 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 和倉幸配 閲覧数:189

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 九回裏二死満塁、得点は一対〇。
 球場の興奮が最高潮に達する中、僕はピンチヒッターとして打席に送り出された。
 甲子園大会への出場をかけた県大会の決勝戦。一打出れば逆転サヨナラ勝ちという場面で、僕の出番がやって来た。
 高校三年間、僕はついにレギュラーポジションを獲ることはできなかった。
 だが、勝負強さを買われて、しばしばピンチヒッターとして起用され、それなりに結果も残してきた。狙い球を定めたら迷いなくスイングする、思い切りの良いバッティングが僕の身上だ。
 そしてついに、勝てば甲子園という大事な試合の、最も重要な場面で、僕の名前がコールされた。
 ここで打つかどうかで、我がチームの運命が決まる。そして、僕の運命も決まるのだ。
 僕は思い描いた。あの大きな球場の、大きな声援の中にいる自分の姿を。それはきっと、忘れ得ぬ青春の一頁になるだろう。
 ふとベンチを見ると、監督、チームメイト、マネージャー、その誰もが祈るような視線を僕に送っている。
 僕は目を瞑り、大きなため息をついた。気持ちの整理をつけるためだ。そして、いつも僕を元気づけてくれた、大好きな歌を心の中で思い浮かべた。よし、もう大丈夫だ。
 ゆっくりと打席に入り、僕は構えた。相手のピッチャーが投球動作に入る。球場が静まりかえる。そして、ピッチャーが一球目を投じた。
 ボールは外側に大きく外れた。相手のピッチャーを見ると、肩で息をしている。やはり相当緊張しているのだろう。コントロールに乱れが生じているようだ。
 そして、次の一球も僅かに外れて、ボールの判定。カウントはツーボールとなり、僕はベンチのサインを窺った。だが、監督は腕組みをしてただこちらをじっと見詰めている。小細工はなく、あくまで僕のバッティングに賭けるということだろう。
 そのあと僕は、変化球を二球見送ったが、いずれもストライクだった。これでツーボールツーストライク。追い込まれた形となった。
 次の一球、僕は直球かと読んでいたが、相手のバッテリーは裏をかいて変化球を投じてきた。際どいコースだ。僕のバットは動かない。
 一瞬の静寂。そして、審判の判定はボールだった。どよめくスタンド。これでスリーボールツーストライクのフルカウントだ。
 いよいよ次が勝負の一球となる。僕はもう一度、大きく深呼吸をした。悔いを残さないようにしよう。そう自分に言い聞かせながら。
 球場全体が固唾を飲む。相手のピッチャーが投球動作に入る。そして、キャッチャーミットを目掛け、腕をしならせて決め球を投じた。
 直球だ。僕は迷うことなく、全力でバットを振った。渾身のスイングだった。
「……ストライク! バッターアウト!」
 我がチームの、甲子園大会出場の夢が消えた瞬間だった。

 甲子園大会の開幕の日。
 僕は大きな声援の中にいた。
 やっとの思いで手に入れたのだ。ずっと大ファンだったアイドルグループの、ドーム球場ツアーの初日、それも最前列席のプラチナチケットを。
 この時、僕はまさに青春の一頁を謳歌していた。
 そして、いつも僕を元気づけてくれた、大好きな歌をグループのメンバー達と一緒に大声で歌った。


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