1. トップページ
  2. ハートは胸にはついてない

浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

性別 男性
将来の夢  
座右の銘  

投稿済みの作品

1

ハートは胸にはついてない

17/10/29 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:318

この作品を評価する

 ◇ 
 中学生になって少し経って、同じクラスでハーフの山田リエンに放課後、肩を叩かれる。
「白崎さん、これから僕とデートしてほしい」
「私のことからかってる?」
 リエンは心底驚いたように目を見開くと、一つ咳払いをした。
「僕ね、異性とデートしないと“死んじゃう病気”なんだ」

 確かリエンは小学五年生までアメリカで暮らしていたと言っていた。
 もしかしてこれが向こうで定番の口説き文句なのだろうか。

「アメリカンジョークって笑えないね」私は欧米人の血が入ったリエンにわかりやすいよう、大きく溜息を吐いた。「てか、なんで私なわけ?」
 リエンは私の瞳から視線を下げ、私の胸を指差して言った。
「それは白崎さんの“ここ”が大きいからだよ」

 秋の夕暮れ時に、乾いた音が一発。反射的に私は、リエンの頬を引っ叩いていた。
「あんた最低なんだけど!」
 必死に食い下がろうとするリエンの弁明も、脳内がグツグツ沸く音で、私には聞こえなかった。

 ◇
 次の日。リエンは学校を休んだ。なんでも彼には持病があるのだと、先生から報告を受けた。

「白崎って確か、山田の家近いよな?」あいつの家なんて知らないし。「帰りにプリント届けてやってくれ」
 昨日リエンにビンタをかまして、その次の日にこんにちは〜だなんて、馬鹿みたいな話だ。
「……はい。わかりました」
 それでも私は断れない。なにか頼まれごとを受けると、それをすべて引き受けてしまうのが私の性格なのだ。
 
 ーーリエンのおふざけは別だったけど。

 六時間目の授業が終わって部活にも入っていない私は、リエンの家のピンポンを鳴らす。すぐに彼が扉を開けた。
「白崎さん。どうしたの?」
 上下ジャージでラフな姿のリエンが、満面の笑みを見せた。
「なんだ、元気そうじゃん。心配して損した」
 私はカバンからプリントを取り出すと、彼に手渡した。
「ありがと。白崎さんが来てくれたから、元気になったみたい」
 そういう余計な一言が癪に障る。
「私が昨日あんたにビンタしたから、それで体調悪くなったとか言わないよね?」
「それは関係ないけどさ。その前に僕が言ったこと覚えてる?」
「デートの話?」
 リエンはつっかけていたスニーカーの紐を縛ると、背筋をうんと伸ばした。
「家まで送るよ」
「体調悪いんじゃないの?」
「うん。こうしないと、悪くなるんだ」
 私は首を傾げて、目に見えないハテナマークを宙に浮かべた。

 ◇
「信じられないのも無理ないよね。だけど、定期的に僕は女性とデートしないと駄目になっちゃうんだ」
 私たちは落ち葉を蹴りながら、自宅までほんの数百メートルの距離を歩いた。
「じゃあ、今までどうしてたのさ」
「ママに付き合ってもらってたよ。でも、僕ももう中学生だしさ」
 ……リエンって、ママ呼びなんだ。
「それは一回置いておくとして。じゃあ、どうして私なわけ?」

「......あはは、ごめん。僕さ、大事なこと伝えてなかったよね」風が吹く。私は急に足を止めたリエンの方に向き直った。「僕、白崎さんのことが好きなんだ。僕が昨日伝えたかったのは、白崎さんの“胸”の話じゃなくて“ハート”の大きさについてだよ」
「ハート?」
「ほら、白崎さんって器が大きいからさ。先生にも頼りにされてて、僕が嫌なこと言った次の日にも、まぁそれは誤解なんだけど家に来てくれて。それも含めて好きなんだよね」
 一切恥ずかしがる様子も見せず、畳み掛けるリエンの言葉に動揺する。
「それじゃあ、病気は口実?」
「それは本当。異性と言っても、心から愛してる人とのデートじゃないと駄目なんだ」
 だからお母さんに頼んでたってわけね。納得。
 ……してもいいのだろうか。
「悪いけど私、あんたが思ってるような人間じゃない。器だって大きくなんてないからね」
「じゃあ僕が、白崎さんのハートから溢れた色んなものをキャッチするよ。そしたらかなり無敵じゃない?」
 彼の純粋無垢な瞳に吸い込まれそうになって、私は重大なことに気がつく。

「私のハートって今“ここ”じゃなくて、頭にあるみたい」
「え?」

 私はリエンの調子の良い発言に対し、散々ハーフだからなんて理由で頭で拒絶し、偏見を持っていた。
 頭でっかちな考えで他人のすべてを否定していた私は、当然器が大きいわけがないし。
 真っ直ぐで情熱的なはずの彼の告白に、胸をときめかせられていなかった。

「告白の返事は少し待ってもらえないかな」
 だけどそれでも、リエンの病気が本当かどうかわかるのなんて、最後の最後の最後で良いんじゃないかとも思えている。

 いつか私のハートが頭からするする降りてきて、心臓の辺りで高鳴るその時まで。
 このデートを繰り返しても良いんじゃないかと、ほんの少しだけ思えている。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン