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t-99さん

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ここからはじまる物語

17/10/25 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 t-99 閲覧数:157

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 待合せを15分過ぎても彼女の姿はなかった。町はずれに位置する公園には、モスグリーン色をしたベンチが並んでいる。夏場は草木と混じり合い風景に溶け込んでしまう。一枚の絵画のように誰からも気がつかれない。噴水から溢れる水しぶきが水面を揺らしていた。腕時計で時間を確認するついでに水に触れる。冷やりとした感覚がどこか心地よかった。


 生まれて始めて告白された。クラスの顔と名前がまだはっきり一致していないゴールデンウィーク明けに、突然校舎裏に呼び出された。彼女は黙ったまま立っている。一言も発しないまま俯いていた。記憶からなんとか彼女の情報を引きだす。野球部の掛け声が放課後のグランドこだましていた。
「ずっとあなたが好きでした……」
 やっと聞えてきた言葉はどこかぎこちなくて、なんとも頼りなくて、弱々しかった。
「付き合ってもらえませんか?」
 短く言葉を継ぐとそれっきり黙り込んでしまう。
 今時ならメールだってラインだってあるだろうに、スマートじゃない。どれだけの勇気を振り絞ってここにきたのか逆に考えてしまう。教室での印象とはだいぶ違って見えた。
 倒れ込みそうなほど頭を下げ小刻みに足が震えていた。髪からのぞく両耳が真っ赤に染まっている。好きな人はいなかったが、高校で付き合うわけにはいかなかった。
『お願いします』
 彼女の口元が動いた気がした。うつむいたはずの彼女から……。
 

「ごめん、おくれちゃって、待った?」
 少し息をはずませ、胸元に手を置き呼吸を整えている。
「いや、今きたところだよ」
「よかった。初めてのデートだから」
 制服を着ていない彼女の姿を見るのは始めてだった。まっすぐ迷いのない目をしていた。
「デートプラン、いろいろ考えてきたんだ」
 強引に手をひき一緒にベンチに腰掛ける。カバンから取り出した手帳には、びっしり色とりどりのペンで書かれた可愛い文字が踊っていた。
「絶対オススメだと思うのがこれ」
 トーンがどんどん大きくなっている。
「70点かな」
 ぶっきらぼうに点数をつけてしまう。
「えー、なんで、なんで」
「クラスの誰かとばったり出くわしたらまずいだろ」
「いいじゃん、いいじゃん。なにも悪いことしてないもん」
 頬を膨らませて手帳を閉じてしまった。
 そう彼女は悪くない。悪いのはすべて僕のほうだ。あの時、断りきれず校舎裏に行ってしまった瞬間からこうなってしまうことはわかっていたはずだった。大きな雲がゆっくり風に吹かれ日差しを遮りはじめていた。
「困らせちゃった?」
 不安げに僕の顔を覗き込む彼女は教室のままだ。
「大丈夫だよ。でも今はこれが精一杯」
 彼女の笑顔とぬくもりが同時に伝わってきた。僕はしっかりと彼女の手を握っていた。
「公園デートでもいいよ、先生」
「その呼び名はやめてくれ。ここは学校ではないだろ」
「は〜い」
 無邪気にこたえる彼女は危ういくらい純粋で愛おしかった。この手を決して離したくはない。心からそう思った。



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