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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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りんごとナイフとピエロにキッス

17/10/24 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:251

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 移動サーカスのピエロに最初っからなりたかったわけじゃないぜ。
 おいらは夜が怖かったんだな。
 だから夜を明るくしてくれるサーカス団の一員になりたくて、今の団長に弟子入りを志願したんさ。
 おいらも団長みたいにカッコよく鞭を振るって風を切れると思ったのさ。猛獣使いの芸でお客の歓声を浴びれると思ったよ。甘かったね。
「離しちゃいけねーよ。お客さん、あんたを信じてるからね。今日のお客の中で一等人が好さそうな人選んだんだからね、裏切らないでおくれよ」
 お客が引っ張る付け鼻のゴムが伸びていく。おいらの後ろで団長が「今だ離して」と書かれたパネルをかざす。痛くないようにスポンジ製の鼻だけどさ、毎回やっぱりおっかねーよ。
「もうお客さんは信用ならねー。驚かせてやるぞ。おいらの得意なりんごのジャグリングを見ておくれよ」
 ジャグリングはホントに得意なのさ。目をつむってもできる。パンツの中にカエルを放り込まれたって落っことさずに続ける自信があるぜ。だけど、ピエロの上手なジャグリングなんか誰も期待しちゃいないのさ。わざとの失敗、落っこちるりんご。地面すれすれでリリーの投げたナイフが、りんごを貫いておいらの脛に突き刺さる。
 静まりかえる客席。流されるレクイエム。おいらの心臓は脛にあるのか? 大袈裟に倒れ込む。駆け寄ってくるリリー。まくられるズボン。金製の煙草入れがゴムで止められている。
「こいつのおかげで助かったね? おやあんた、これは団長のじゃないか」 
「おいらの手癖が悪いおかげでリリーは人殺しにならずにすんだんじゃねーか」
 流れてくるコミカルソング。団長は鞭を一振り。
「今日はここまででございます。私は小物の獣を調教し直さないといけません。皆さんお気をつけて良い夜を」
 拍手喝采。ああ、おいらはピエロ。

「なんか、一個でいいんですよ。一個だけ、お客におおって言わせて拍手を浴びたいんです」
「どうしてそんなこと言うんだい?」
 おいらは団長に頼み続けているんだけどね。なかなか団長叶えてくれないんだ。それぞれの役割があるってそればっかりさ。
「お客のカップルにどうしても目がいくんす」
「それで?」
「デートで来てるんすよ。おいらだってね、その、デートをする側に回ってみたくって。だから、今のまんまの笑われるピエロをやめにしたいんです。これまでのことはやります。でも、一個でいいから、失敗じゃなくって成功で拍手をもらいたいんです。そうすりゃきっと、誰かおいらをデートに誘ってくれますよ。へへへ」
 こんな団長との会話をリリーに盗み聞きされてたみたいだ。
 公演が終わっておいらがピエロメイクを落とそうとしてると、「デートに行くよ」って誘われた。リリーはモテるからな。モテないおいらを憐れんだんだろう。だからピエロはやだったんだよ。
「聞いてたんか」おいらにだって男の血は流れてる。道化の踊りはもう公演で踊りきったさ。
「いいから、行こうよ一杯」
 まぁ、デートじゃないのはわかってるから。酒なら付き合うか。おいらがせめて一張羅に着かえようとすると、リリーは止めた。
「そのまま行くよ。あたいもこのまま行くからさ」
「このまま? ピエロのままで酒場に連れてくのかい?」
「わからせてやりたいことがあんのさ」
 おいらはピエロで、リリーはド派手なスパンコールだらけのきわどいレオタード姿で、出かけた酒場でおいらたち二人は大歓迎を受けた。
 酔っ払ったお姉さんにおいらはチューをされ、リリーはツルツル頭の爺ちゃんに求婚された。
「わかったろ」ってリリーは言ったさ。でも、おいらにはわかんなかったね。
「わかんねぇ」
「あんたは今でも人気もんだよ」
「こんなのじゃねんだ。おいらが欲しいのは」
 リリーは少し、怒ったように安酒を煽った。そのまま、おいらに向かってか夜の虫に向かってか、捲し立ててナイフ投げを始めた理由を語った。なんでだ。
「ニュートンのりんごってあるだろう。あのりんごは無念だったはずさ。鳥は隠して空を飛んでる。りんごにはだけど羽がない。隠しきれずに落っこちた。ニュートンのやつに万有引力をみっけさせちまったんだ。きっとノスリは冷たい目でりんごを見たろう。だから私は、地面に落ちるりんごをナイフで救ってやるのさ。あたいのナイフはりんごの羽さ。りんごが滑らせた口を塞ぐキッスさナイフは」
 酔っ払ってるんだろう。放っておこう。
 ん。お客が絡んでくる。りんごを持って来た。ここで見せてくれって。リリーは酔ってるぞ。でもいいさ、おいらはピエロだ。
 始めたジャグリング。一個のリンゴをうっかり落として見せる。
 その時不思議なことが起こったよ。
 リリーがおいらにキスをしたんだ。
 なんだ。リリーは本気だったのか。
 酒場の客がおいらとリリーに拍手をくれた。



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