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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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目覚めたあなた

17/10/24 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:420

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 理紗が母にむかって甘えた声で話しかけたのは、一月後に結婚を控えた夜のことだった。、
「ねえ、お母さん、私にあの指輪、ちょうだい」
 母はテレビから娘に顔をむけた。
「あの指輪って、どの指輪のこと」
「ほら、二階の棚の上の、木箱にはいってるあれよ」
「あれは、お父さんの家に代々伝わるものよ」
「じゃ、お父さんに頼んでみる。まえにちらとみたことあるんだけど、純金製で、なかなかのものみたいだわ」
 そこへ父親が、入浴をすませてやってきた。
 理紗は母のときよりもっと甘えた声で、父に指輪のことをきりだした。
「一度あれをはめて、彼とあってごらん」
 意外な返事に、理紗は母の顔をみた。彼が気に入ったら、くれるということじゃないのとその顔は教えていた。
 次のデートの日に理紗は、指輪をはめてあうことにした。
 当日、いつものカフェで彼とむかいあわせに座ると彼女は、指輪をした手を得意げにあげて、
「どう、似あうかしら」
「似あわない」
 にべもない言葉に、愕然と目をみはる理紗に、彼はさらにたたみかけた。
「きょうのきみのファッションも最低だ。化粧にしてもけばい」
「いつもはそんなこと、いわないじゃないの」
「いつも心で思っているんだけど、きみが傷つくとおもってだまっていただけさ」
 理紗はいまにも泣き出しそうになった。それにしても、きょうの彼はどうしたというのだ。なんであれ返事ひとつするにも慎重に慎重を重ねてながい間をおく彼なのに………。
「きみはいつも、じぶんのことばかりはなして、こちらのいうことなんかちっとも耳をかさない。結婚のことにしたって、きみがもちだすのはきまって、じぶんの家族のことだけ。ぼくの家族のことを、一度でもきいたことあるかい」
「あったような気がするけど」
「その程度じゃないか。結婚してからもそんな調子じゃやりきれないよ。だいたいそんなきんきらきんの指輪はめてきてみせびらかしているようじゃだめだ。ぼくがそんなのほめるとでも思ったのかい」
「そんなあ」
 とうとう理紗は顔を覆って泣きだした。彼はこのときでさえ、慰めのことばひとつかけてくれなかった。
 理紗はまっくらな表情で帰宅した。まだ目に涙がにじんでいるのをみて母が、
「なにがあったの」
 いつまでも黙り込んでいる娘をみても、父親のほうは案外おちついていた。
「彼の反応は、どうだった」
 理紗はようやく重い口をひらいた。
「どうって」
「彼に、指輪をみてもらったんだろ」
「この指輪がどうしたの」
「その指輪から放たれる神秘のパワーを浴びると人は、迷いから覚めて本音でものをしゃべるようになるんだ」
「迷いから、覚める………」
「彼、なんでも思ったことずばずば、いっただろ」
 いわれて思い出したのか、理紗はまた顔を曇らせた。
「せっかく新調したての服をきていったのに、彼、似あわないっていうの。化粧も厚過ぎだなんて、ひどい」
「怒るんじゃない。彼は理紗の上辺にまどわされなかったんだ。つまり、彼はおまえの内面にほれてるってことだよ。彼がもしなにもいわずに、お世辞ばかりならべたてていたら、理紗は何も気づくことなくこれからだって虚飾を身にまといつづけていたにちがいない」
 まだ納得のいかない理紗に、父は彼女の指にひかるリングに目をやった。
「さっきもいったようにその指輪には、人を迷いから覚ませて、真実に目をむけさせる力がひめられている。理紗は彼の、いつわりのない胸のうちを、指輪のパワーでのぞきみることができたんだ」
「でも」と理紗は、指輪から目を両親にむけると、「いまこれをはめていても、お父さんたちはいつもと変わらないようだけど―――」
 それをきくと、母がふいにふふふと笑った。
「それは理紗、あたしたちはいつも、おまえに対しては、嘘偽りのない気持をぜんぶ、さらけだしているもの」
 理紗もようやく、もちまえの明るい表情にもどった。
「それにしても、これって、すごいパワーをもってるのね」
 指輪をはずしてあらためて、金の指輪をとみこうみした。そしてふと、両親の顔をみくらべながらいった。
「お父さんも、お母さんといっしょになるとき、これをはめてみたの」
 父親は、うなずいた。
「もちろんだよ。母さんもおぼえているだろ。あの日ぼくの指に、これがはまっていたのを」
「おぼえているわ。でも、あのときあなた、あたしになにもいってくれなかったわね。いったいその指輪で、なにがみえたのかしら」
 なにもいおうとしない彼を、理紗のほうがせっついた。
「お父さん、だまってるなんて卑怯よ。わたしたちにきかせてよ」
「そこまでいわれたら………。なんでもないことさ。母さんの顔がいまいちでも、心は最高だってことを、指輪の力でぼくはしったんだ」
 すると、それまで笑っていた母親の顔が、にわかにこわばった。



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このストーリーに関するコメント

17/10/28 文月めぐ

『目覚めたあなた』拝読いたしました。
不思議な指輪のお話、面白かったです。
終わり方も絶妙で、どちらの夫婦も丸く収まってくれるよう、祈る気持ちでいっぱいになりました。

17/10/28 W・アーム・スープレックス

じぶんなんかも、迷いの大海の中でいつも、アップアップしています。迷わなくなったら、なんだか不安になりそうです。古の賢者も迷いぬいたあげく悟りを開いたそうですので、まちがってもそんな心境に到達しっこない私なんかはやっぱり、迷いの波間にのんびり揺られ揺られてゆくことにします。
ありがとうございました。

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