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PURINさん

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17/10/23 コンテスト(テーマ):第147回 時空モノガタリ文学賞 【 迷い 】 コメント:0件 PURIN 閲覧数:299

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俺には年子の知的障害のある弟がいる。あれは確か、俺が6才、弟が5才の時のことだ。


当時アパートの3階に両親と弟と一緒に住んでいた俺はその日、リビングで弟と双六で遊んでいた。両親は留守だった。最初は楽しくやっていたが、そのうち弟の機嫌が悪くなり出した。(何か気に食わないことがあったからだとは思うが、細かいことは覚えていない。)弟は自分の駒を放り投げ、何事か泣き叫びながら玄関へ向かって行った。俺がサイコロを持ったまま慌てて後を追うと、弟は玄関を解錠してドアを開け、裸足のまま外に出ようとしているではないか。俺は必死で後ろから彼を抱き締め、「ダメだよ!みーくん!でちゃダメ!」と叫んだ。だが、弟は俺のいうことなど耳に入らない様子で、意地でも外に出ようと喚きながらドアから出て行こうとしていた。弟も必死だった。俺はパニックのあまり涙が出てきた。
そうして暴れているうちに、俺の手からサイコロが落ちた。

そのサイコロは、俺が幼稚園の工作の時間に作ったものだった。組み立てると立方体になる厚紙を配られ、6つの面に各自数字と好きな絵を描き、のりしろにのりを塗って完成させた。俺は、その頃ハマっていたアニメのキャラクターの顔を、1の面にはひとつ、2の面にはふたつ、3の面にはみっつ…という具合に描いた。我ながら上出来だった。その日はそれを使ってチームに分かれて双六をした。大好きだった先生が、俺のサイコロを褒めてくれた。それが嬉しくて、だから、そのサイコロは俺の宝物だった。幼稚園でも家の中でも、ずっと持ち歩いていた。
それが今、床に落ちてしまった。拾わなきゃ。大事な宝物が汚れちゃう。でもみーくんを抑えなきゃ。でも、拾わなきゃ。でも、抑えなきゃ。でも…

迷った末、俺は弟を抑えていた両手を離した。

弟はドアを押し、叫び声とともに外に飛び出して行った。俺はサイコロを拾い上げると、リビングに戻り、ソファに座ってテレビをつけた。
(どうしよう。みーくんどっかいっちゃった。パパにおこられる。ママにおこられる。おまわりさんにつかまっちゃう)
そんなことをぐるぐると考えながら大泣きしていた。

 数分後、玄関のドアが開く音がした。ドキッとしたが、入ってきたのはまだ泣いている弟と、臨時の仕事から帰ってきた母親だった。母親は、アパートの入り口近くで弟が一人でいるのを見つけ、連れて帰ってきたのだった。
 一気に安堵したせいなのか、その後の記憶がおぼろげだが、母親に何があったのか尋ねられて「おさえたけどみーくんがいっちゃったの」と答えたことだけははっきり覚えている。
 その後はできるだけ両親は俺達だけで留守番することがないようにしてくれたり、弟が通っていた施設の人に相談してアドバイスをもらったりといった対応をしてくれた。それもあってか、弟は少しずつ落ち着いてきた。

今では、成人した弟は障害者の就労支援施設で働いている。他の利用者さん達や職員さん達とうまくやっているらしく、日々を楽しく過ごしているようだ。俺も普通の会社員として、普通に暮らしている。あのサイコロは、俺が小6の時に今の家に引っ越してきた際、何処かの荷物に紛れたらしく今では行方不明だ。

俺は、今でも恐ろしい。なぜ俺は、あの時弟よりもサイコロを優先させたのだろう。弟のことは嫌いじゃなかったし、むしろ世界一可愛いと思っていた。それなのに、良い出来だから、良い思い出があるからといってなくしても取り返しのつくサイコロを、なくしたら取り返しのつかない弟よりも優先させた。「子どもだったから」なんて理由では済ませたくない。子どもだからとはいえ、生き物は死んだら二度と生き返らないということくらいもう分かっていたはずなのに。あの時は運が良かったけど、もしかしたら大切な弟を永遠に失っていたかもしれないのに。しかも、俺は弟が出て行った後、彼の心配をするどころか自分が大人達に怒られることだけを心配していた。しかも気を紛らわすためなのかテレビを見ながら。なんて利己的なんだろう。「利己的」というのはまさにこういう時に使う言葉だろうというくらいに利己的だ。もしかしたら、この事件以前や以後にも俺は大切な優先順位を間違えて誰かをとんでもない目に合わせたことがあるかもしれない。いや、絶対にあるだろう。こんな非人間的な男なんだから。さっきも書いたとおり、俺は今は「普通」に生活しているが、それはあくまで表面上での話だ。出来る限り人には親切にしているつもりであり、周囲から「優しい」という評価を受けることもあるが、皆知らないのだ。それが化け物が必死に人間に成りすましている姿だということを。
 あの日のことを覚えているのかいないのか、毎日を笑顔で過ごしている弟を見ながら、俺は自分が本当に怖くてたまらない。


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