kinaさん

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17/10/22 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:0件 kina 閲覧数:267

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 恋人と小舟に揺られて川を流れる夢を見た。川はゆるやかな流れで、私たちの他には誰もいない。舟は沈みかけており、崩した私たちの足は水に浸かりかけていた。けれど、何も困ることなどなく、ただ身を任せていた。
 日没、空が薄暗くだいだい色に染まり、水面に溶け出してきらめく頃、私の抱くその人はまぶたを閉じて眠っていた。その横顔やまつ毛の先に、私は胸元で育った愛しさを灯しては、腕に力を籠め、二人で夜を待っていた。
 けれど私たちの夜は、つまらない寂れた地方都市のプラットホームに訪れた。私は一日分の疲労感をしっかりとからだに纏って、融通の利かないシャツの肩に苛立ちを溜めている。
 アナウンスが繰り返す「まもなく」にくたびれながら、向かいのホームを眺めていると、背広を着て横に並ぶサラリーマンの中にあの人が居た。けれど、どの人があの人なのか、はっきりとしない。確信が持てないでいる。私が声を掛ければ、何かサインを寄越すくらいの関係を築いてはいるが、彼の表情にもまた疲労が影を落とし、神妙な面持ちで自分の人生に佇んでいるようだった。
 ずっと眺めていると、思い込みだけが真実めいてきて、声を掛けないでいる自分にいたたまれなくなっていた。衝動がある境を超えた頃、その気持ちだけを生々しく覚えたまま、私は目が覚めた。

 隣にできたあの人の抜け殻は柔らかそうだった。恐らく外は曇り空なのだろう。やたらと白い光に満ちた部屋は、土曜日の休日をうしろめたく冷やしていた。すべてをワンストロークで薙ぎ払えそうな小さなワンルームでも、家主の不在は何かが欠けている。
 自分に居場所がない訳ではない。そう訴えるように、沢山の白いビニル袋がスツールから飛び出している。以前私が、コンビニで貰った袋はとっておいてと頼んだことを、彼は律儀に守っている。その白さが煩わしくもある。
 冬の予感がする。鼻がムズムズするのだ。滴る前に慌ててティッシュで鼻をかむと、電光石火のごとく使い捨てられるそいつが、なんとなく袋にだぶって、いつの間にか私までも仲間にしようとしてきた。
 だからいつものように、私はバッグから財布を取り出し、一円玉を探した。全部で七枚。なぜか同い年の一円玉が一番汚かった。その一枚残しに甲斐甲斐しく左手に並べ、彼の飲み代用の財布にさらさらと流し入れた。彼は以前言っていたのだ。一円玉だけいつも枚数が足りなくて、崩すしかなくなるのだと。今は私の一円玉だけが群がっている。
 先ほどの一円玉をつまみあげて、平成生まれの歳月を眺めていると、報われる気がした。おかげで夢うつつはすっかりさらわれて、地に足が着くのを感じるのだった。


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