1. トップページ
  2. 僕とちびすけのお買い物隊

待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

僕とちびすけのお買い物隊

17/10/22 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:191

この作品を評価する

 ちりん、となるのは財布の鈴。買い物に出るお母さんの後ろを付いていく。歩けばころろんと僕の首輪の鈴が鳴る。
 お母さんは足元の僕に気付き、微笑んだ。
「あら、また付いてきたの? 猫はお店に入れないのよ?」
 仕方ないわね、と抱き上げられて僕はお母さんの腕の中。お店の中には入れないけれど、家族の為の買い物をするお母さんを待つのが僕の日課。
 お母さんの家族はだんなさんと小学生の小さな娘。僕を加えて三人と一匹の家族。僕はお母さんが大好きだけど、ちびの娘はあんまり好きじゃない。だって、追いかけまわして尻尾を引っ張るんだもの。生意気なヤツは好きじゃない。
 いつもの買い物にいつもの財布。そしていつもの通りに出かけたはずのその道で、お母さんはいつもと違う表情をして立ち止まった。赤ん坊がいる大きなお腹を抑えてうずくまる。
 ちりりり、りりり。ころろろろ。
 財布が転がり落ちて僕が慌てて、二つの鈴が音を立てる。

 幸い、お母さんの体に大変なことが起きたわけじゃなくて僕は心底ほっとしたものだ。だけどお母さんは大事をとってそのまま入院し、赤ん坊が生まれるのを待つこととなった。
 お母さんのいない家は寂しい。お父さんと我儘でやりたい放題のちびが残されて、何だか居心地が悪い。
 お母さんが入院した次の日。
「クロ、行くよ!」
 突然ちびすけは偉そうに僕にそう言い放った。僕はその態度にむっとなる。いきなり偉そうに、何の話だ。
「今日はアヤがお買い物行くの。おかあさんの代わりなのよ」
 僕の体をうんしょと抱き上げ、玄関に向かう。その肩には鞄がかけられ、手にはメモが握りしめられている。
「お買い物の時はクロも一緒でしょ。来なくちゃダメよ」
 こんなヤツに買い物なんて出来るものか。逃れようと暴れていたら、ちびすけの鞄から転がり出したものがあった。
 転がり落ちたのはお母さんがいつも持っていた財布。僕はそれに飛びついて咥えた。
「クロッ! 返して!」
 嫌だ。この財布はちびすけのものなんかじゃない。家族を守るという使命を持ったお母さんのものだ。だからお母さんがいない時は、いつも一緒に買い物に出かけていた僕がこれを守るのだ。
 睨みを利かせると、ちびすけは地団太を踏んだ。ほら癇癪を起こした。子どもなのだ。
 そう思っていたら、ちびすけは目をごしごしとこすって「泣いてない!」と叫んだ。
「アヤがお母さんの代わりするんだもん……っ」
 必死で涙をこらえるちびすけに、少しだけ興味が湧いた。
「お父さんの好きなチーかまと、お母さんの好きなみかんを買うのっ。約束したの。アヤがお買い物するの!」
 小さな小さな自立心で、家族の為に出来る事を探したのだろうか。チーかまとみかんを買って何の役に立つのだかは分からないが、自分も家族を支えられるのだと伝えたかったのだろうか。
「お母さんが言っていたの。買い物に行く時はクロと一緒に行きなさいって。クロはお買い物隊の隊長で、道にくわしくてとっても頼もしいって。クロが来なくちゃおかいもの行けないの……っ」
 ……お母さんは、僕がちびすけを嫌っていることに気付いていなかったのだろうか。まったく能天気な。僕が行かなかったらどうするつもりなのだ。こんなちびすけをお使いに出すなんて、危険があったらどうするのだ。僕の案内がなければ迷子になってしまうだろうに。不安で大泣きするだろうに。
 …………。
「クロ?」
 ちびすけが僕を覗き込む。……仕方ないなぁ。
 僕は口から財布を離すと、ちびすけにそれを持たせてやった。行くよ、と意思表示をして玄関に向き直ると、後ろでちりりと鈴が鳴った。僕の案内に逆らったら許さないぞ。

 かくして僕はちびすけを迷子にすることなくお店まで連れていくことに成功し、ちびすけは無事にお使いの任を果たしたのだった。財布の鈴と僕の鈴の音を頼りにお父さんがこっそり付いてきたのには気付いていたけれど、僕は知らんぷりをしてあげた。
 その日の夕食の席で聞いた話だけれど、お母さんは「アヤすごい!」と何度もちびすけを褒めたのだと言う。カリカリを食べながらちびすけのそんな自慢話を聞かされたけど、別にうらやましくなんかない。猫が病室に入れないのは仕方のない事だから、悔しくなんかない。お母さんが退院したら僕だって撫でてもらうのだ。
「これね、お礼よ」
 そう言って、ちびすけは巷で大人気の「にゃんこのおやつ」を僕にくれた。お使いにはこれも入っていたようだ。
 その日僕は夢を見る。無事に男の赤ん坊が生まれてその子が少しだけ大きくなった夢だ。ちびすけはお母さんから鈴のついた財布を受け継いで、弟と手を繋いでお買い物隊の列を作る。僕はその先頭に立ち、ぼやきながらも隊長を務めてやっていた。
 ――なかなか悪くない未来だ。ふふ、と僕は寝ながら笑いをこぼした。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/10/22 霜月秋介

待井小雨さま、拝読しました。
優しい雰囲気が漂うお話で、心が温まりました。
それにしても、後をつけるお父さんを思い浮かべると微笑ましいですね(笑)
素敵なお話を有難うございます。

17/11/01 待井小雨

霜月秋介様

お読みいただきありがとうございます。
親的には本当に猫を連れていけば安心とは思っておらず、娘の不安を除くべく猫を連れていかせました。
なので、お父さんは猫を連れていく段階からハラハラしながらずっと見ていました(笑)
優しい雰囲気との評価が嬉しいです!

ログイン