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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで3年目に入りました。これからも勉強を重ね、たくさんの作品を書いていけるよう頑張りたいと思います。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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mothers〜白猫スノウと、こころの財布〜

17/10/22 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:180

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「気を付けてお行き」、人間のマリアさんは捨て猫スノウの頭を撫でました。
 わけあって母とはぐれた生き物は、大きくなったら自分の力で母を探し出さなくてはなりません。見つからなければさだめに従って形を失い、何者でもない怪物になってしまいます。
 スノウが母を探す唯一の手掛かりは、綺麗な花の模様が入った財布でした。
「こんなに美しい財布を娘に残してくれたんだもの、きっとお母さんはお前を待っているわ」
「行ってまいります。お元気で!」
 首から紐で下げたがま口の財布は、「旅に役立てなさいと」マリアさんが入れたお金で優しい音が鳴りました。


「私のお母さんを知りませんか」
「知らないねぇ」
「この財布に見覚えは……」
「見たことないわね」
 訪れた街は大きいですが、皆は母を知らないと横に首を振ります。
「あなたの純白の毛皮は一度見たら忘れないけれど、残念ながら似た猫はこの街にはいないよ」、三毛猫おばさんはエプロンのポケットに入っていた煮干しを、「あとでお食べ」とスノウの財布に入れます。そんな善意のおすそ分けは旅を随分楽にしてくれました。


 しかし良い事ばかりではありません。
「私がお母さんだよ、娘や、苦労したんだね。この大きいお金と、お前の小さいお金と換えっこしてあげよう」、耳は大きく尖り、尻尾は箒のように太い、黄色い毛色の動物が囁いてきます。
「お嬢さん、どうしましたか?」
 通りがかった旅の犬を見るなり、動物は逃げていきます。スノウが事情を話すと、彼女は答えました。
「あれは猫じゃなく狐よ」
 女狐の残した紙幣は、干からびた木の葉に変わっていました。


 犬の名はジル。道化師で、色んな村を回って芸を見せるのが仕事でした。
 気さくな彼女に連れられて、スノウは旅を続けることになりました。
「世の中にはいろんなお母さんがいるんだなぁ」
 子供を亡くした母熊には魚釣りを伝授され、母ガラスからは、巣から落ちた雛を助けたお礼に綺麗なビー玉を貰いました。
 子だくさんな山羊の乳でチーズを作り、初産を控えたネズミに売っては路銀の足しにもしました。
 しかし、母を知る動物に巡り合えません。やがてこの身は怪物になってしまうのでしょうか? 
「きっとお母様は見つかりますよ」
 ジルはスノウをいつも慰めてくれました。悪い予兆は跡形もなく消え去ります。彼女は、本当のお母さんとマリアさんの次の、三番目のお母さんでした。


 サイハテ村に着きました……ここは怪物の村。母親が見つからなかった動物たちが、異形の姿で彷徨っています。可哀想にと、心を痛めていたそのとき。
「ああ!」
 スノウは叫びました。その群れの中にいたのです。雪のように真っ白な、スノウと同じ毛をした怪物が。
 怪物は、スノウと財布を見つめ悲し気に涙を流しました。
 間違いありません、お母さんです。
「なぜ、お母さんがここに?」
「わたしは珍しい毛色の猫だったので、売られるために親から引き離されましたが、ついに母が見つからず怪物の姿に……」
 何という事でしょう、怪物になった母は娘を育てられず、優しいマリアさんに託すしかなかったのでした。
「この財布には母から受け継いだ唯一の財産……生命が詰まっている。あなたをさだめから守ってくれると信じ、一緒に持たせました」
 スノウは今までの旅を振り返りました。親切な思い出が詰まった財布の温もりに、飼い猫の鈴よりも確かに、自分が何者であるか思い起こされるのでした。


 スノウは怪物になった母に財布をそっと返しました。
「私があなたを何者か知っている。あなたが私を捨てたとしても、あなたは私の母なのです」
 すぅっと、財布から光が漏れました。
 今まで出会ったあまたの母たちの願いは、この旅で得たかけがえのない財産です。
『どうか、スノウが母と再会できますように』
 そう……信じる者の力はさだめよりも大きいのです。
 ジルは、怪物に向かって両手を広げ言いました。
「私は病気で子供を産めなかったから、子供を笑わせる道化師になりました。私はみんなの母になりたいの」
「――お母さん」、ジルが怪物をぎゅっと抱きしめると、その姿はみるみる小さくなり真っ白な猫の姿に戻りました。
 スノウも嬉し涙を流し、二匹に抱き着きます。
 懐に抱かれた財布が光の中に溶け、暗い村を暖かく包み込むと「お母さん」「お母さんだ」と怪物は次々に声を上げました。
 するとどうでしょう!
 失った生きる意志を思い出し、本当の自分に姿が戻りました。
 誰が決めたのか知れないさだめは、子をいたわる母の深い愛で消えたのです。


 ……財布に込められた真心は、絆を生みます。
 白猫スノウにはこうして多くの母と兄弟ができたのでした。
 今ではかの地を誰もがサイカイ村と呼び、訪れる者は絶えないそうです。


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17/10/22 冬垣ひなた

≪補足説明≫
・画像は「写真AC」からお借りしたものを加工しました。

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