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本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

性別 男性
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お会計問題、社会科学が斬る!

17/10/22 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:132

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 連敗に連敗を重ねた末、青息吐息、命からがら、艱難辛苦、なんでもよろしいが、とにかく非モテ男が意中の娘とお高いディナーデートにこぎつけたとしなさい。
 ここで当然お会計問題が浮上してくる。すなわち天文学的な代金をおごるか否か? 男女平等、女性の社会進出、その他いろいろのリベラル思想が膾炙して久しい昨今、むかしながらの「資金力にものを言わせる俺」を演出したいという最高に愚かな見栄を張るのは時代遅れもはなはだしい。
 でもここはひとつ、相手の出かたを見ようではないか。
 意中の女性は口もとをお上品に拭って(そのしぐさがまたエロ――じゃなかった、魅力的なんだこれが)にっこりほほえむ。「今日はおいしかったよ。ありがとう」
 とりあえず喉もとまで出かかっていた「じゃ、割り勘で」は引っ込めよう。よろしい。財布の中身と社会学的な見地から全額負担か半額負担かを論理的に考察しようではないか。
「あたし今度の日曜日も空いてるんだ」
 いまのはほとんど結婚の申し込みだと解釈して差し支えないだろう。
 よし、まずは社会生物学だ。包括適応度という尺度がある。生物はただ生き残るだけでは半人前で、どれだけ子孫を残せるかが問われる。なぜなら個体の本質はデオキシリボ核酸に収められたATCGの四文字であり、それらは生殖細胞によってのみ、次世代へ受け継がれる。固体はいわば遺伝子の終着点なのだ。子孫を残せなかった時点で三十億年もの歴史は幕を閉じる。
 いまここで夕飯をおごることにより彼女と結婚できるなら、少なくとも

図1 わたしの包括適応度早見表
わたし┐
   ├ガキ(50%)
彼 女┘

となる。これは二進数的な問題だ。すなわち遺伝子は1(受け継がれる)か0(受け継がれない)か。当然1のほうが好ましい。ただこれは将来的な話であって、いまのじゃない。ここでマクロ経済学が顔を出してくる。誰だって一年後にもらえる110ドルよりいまもらえる100ドルのほうがいいに決まっている。すなわち

式1 将来の資産価値は割り引かれる
100/1.07=93.4

一年後の彼女の価値はなんとまあ、93.4ドルにしかならないのだ! 割引率は7%としたが、環境経済学でもそのくらいで温暖化を評価しているからこの数値は妥当である。
「あ、でも再来週はどうかな。和泉くんと約束あるかも」
 和泉というのはわれわれのグループのなかでも最悪の女たらしで、人の彼女や意中の女性を好んでかっさらう悪魔みたいなやつだ。わたしはつねづね思うのだが、なぜあんなのがモテてわたしみたいな誠実な男性が袖にされるのか? これは進化論で説明できる。すなわち性淘汰だ。

格言1 ある時点で雌に好まれた特質は以後も好まれ続ける

 太古のむかし、どこかのとんまがこう思ったのだ。「やんちゃな男って素敵!」。理由はたぶん、うまいことマンモスを狩ってくるとかのくだらないものだったにちがいない。少しでもある特質に選好が偏れば、次第にその特質をコードする遺伝子は集団に膾炙していく。しまいにはそうでないやつがクズみたいな扱いを受け始める。たとえばわたしのようにだ。
「どうしよっかなあ。遊びにいっちゃおうかなあ」
 ええいくそ、いよいよ決断するときがきた。最後にゲーム理論に助けを求めてみよう。

表1 会計のジレンマ
        彼女
        割り勘 おごられる 
わたし おごる 0,10  0,10
    割り勘 5,5   0,10

 よく見てほしい。利得の最大値を10とし、前がわたしの、後ろが彼女のそれだとする。一般的な「囚人のジレンマ」とちがい、男女間の会計問題は男性に著しく不利のようだ。
 なぜこんな結果になるかというと、女性側にそもそも「おごる」の選択肢がないからだ。この苦しい状況でのナッシュ均衡は当然、5,5の「双方割り勘」である。あとは全部問題外だ(少なくとも合理的プレイヤーしか存在しないゲーム理論的には)。
 だが待ってほしい。ここで情けなく割り勘を切り出す前に、囚人のジレンマを何度もプレイする場合の最良の手を思い出すべきときだ。それはずばり「しっぺ返し」戦略である。相手と同じ戦略をつねに選択し続けることにより、長期的には最大の利得を得るという実験結果がある。
 一度きりならみみっちく割り勘にすればいいが、また会うのならひとまずおごっておけば好印象だし、きっと彼女もゲーム理論を知っているだろうから次はおごってくれる公算が大きい。それなら差し引きゼロだ。
「あれ?」ごそごそとわざとらしくバッグをかき回している。「おかしいなあ……」
 ところで考察してきた社会科学すべてを蹴散らす超弩級のイレギュラーが、実はある。
「今日財布忘れちゃった」


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