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アシタバさん

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タヌキ財布

17/10/20 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:0件 アシタバ 閲覧数:146

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あんな怪しい露店で財布など買うべきではなかった。
しかし、露天商の巧みな話術と財布から滲み出る不思議な魅力にすっかり籠絡されてしまい、気づけばお買い上げだった。
消費者センターは俺の言うことを信じてくれるだろうか?
タヌキが財布に化けてたなんて知らなかったんです。だから、クーリングオフは可能ですよね? などと。

「話を聞けポコ」腹部に鈍痛が走る。
腹にパンチを入れられたのだ。考えごとをしていた意識が住処である貧乏アパートの一室へ強引に引き戻された。毛深い前足が俺の腹から離れて掃除機のコンセントのようにシュルシュルとちゃぶ台の上の財布に引っ込んだ。
黄褐色の革財布から再び声がする。
「無駄な出費は控えろと言ったはずポコ」
「お茶を買っただけじゃないか」俺は悲痛な声で訴える。
「熱湯で煮出すやつを買うポコ。ペットボトルなんて贅沢品だポコ」
「面倒臭い!」
タヌキ財布という悪魔の産物といつものように口論となった。
タヌキ財布とはタヌキが財布に化けて財布として働いている世にも奇妙な代物だ。タヌキ財布を買ってしまった人生最悪の日、喋る財布を見て恐慌状態の俺にタヌキ財布自ら説明があったのだ。
タヌキ財布には財布としてお得な機能がある、という。そのひとつが自然とお金が貯まっていく『節約機能』だ。
しかし、実際はタヌキ財布のドケチっぷりに振り回されて、逆らえば前足による鉄拳制裁を受けるという凄惨で忌むべき機能だった。
今日もちょうど一発もらったところだ。
「人のことをすぐに殴るんじゃねえ!」
「やかましいポコ! それよりもレシートをオラのなかに溜めんなポコ!」
今のは『お財布スッキリ機能』である。一度たりとも役に立ったことはない。ただのケンカの火種である。
「もうここから出ていけ!」
「これがオラの仕事だ。簡単にやめるわけにいかないポコ」
アパートにギャアギャアと怒声が響く。俺は生物種の垣根を超えたケンカを繰り返す日々に心底うんざりしていた。
「なら、俺が出ていくぞ!」
頭に血が昇ったせいで何故か家主の俺が家を飛び出した。

あいつをどうにかしてやりたい。しかし、体がすっかりタヌキ財布のボディーブローに恐れをなして今ひとつ強硬手段に出られない。
近所をとぼとぼ歩いていると見覚えのある顔と出くわした。
「タヌキ財布の調子はいかがでっか?」
「てめえ、この野郎!」
タヌキ財布を売りつけた露天商に掴みかかる。
「ちょっと落ち着いて」
「あんな財布、即刻返品だ」
「それはあかん」
「何でだ」
「とにかく聞いてや」
露天商は荒れ狂う俺を宥めて、頭を下げながら話し始めた。
それによると、ちょっと前にタヌキが沢山棲んでいた山が開発でなくなったという。現在、住処を失った多くのタヌキ達が生きていくために色んな形で働いているらしい。タヌキ財布もそのひとつだ。実はこの男、タヌキの研究者でタヌキの為に生きていけそうな場所を見つけて斡旋しているのだという。
「まだ沢山のタヌキが生きる場所を見つけてないんや。どうか返品だけは勘弁したって」
それを聞いた俺は言葉を失くして、それ以上何も言えなかった。

露天商と別れアパートに戻る傍ら、タヌキ財布のことを考えた。
「財布の仕事か」
人間に故郷を奪われたにも関わらず、生きていくために人間に使われる仕事を選んだあいつの気持ちは一体どんなものだったのだろうか? 俺だったらきっと無理だ。にも関わらず、熱心に財布としての役目をはたして、一言も人間の俺に恨み言などなかった。
「あいつのこと誤解してた」
そんな気持ちを抱きつつ、アパートに帰るとすぐ異変に気がついた。
タヌキ財布の姿がない。嫌な考えが頭をよぎる。
まさか本当に出ていったのか? 
慌てて部屋を探すがまったく見つからない。
あんな話聞いて俺はもうお前のこと放ってはおけないんだぞ!
先程の話が脳裏に蘇えって切ない感情が爆発した。
「戻ってこい馬鹿タヌキ!」
すると勢いよく流れる水の音が返事をする。トイレの扉が開いて二足歩行のタヌキの姿が現れた。
「何してんだポコ」つぶらな瞳から冷ややかな視線を投げて寄越す。
トイレに行ってただけ?
恥ずかしさと憤りで顔が火照るのを感じた。しかし、同時に安堵してる自分にも気がつき、思わず目頭が熱くなる。
「そんなことよりさっさと買い物にいくポコよ。特売で煮出すタイプのルイボス茶をゲットするポコ」
「命令すんな」
涙を悟られぬようにいつもと同じ強気な返事をすると、タヌキがドロンと煙をあげて財布になった。
黄褐色の少し温かい財布が俺の手に収まる。
もう、どこにも行くなよ。

俺とタヌキ財布はこの先どういう関係を築くのだろうか?
やっぱりケンカがいつまでも絶えないのだろうか?
何にせよ――今後の財布の買い替えは随分と先になりそうな予感がした。


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