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土佐 千里さん

とさちさとです♪田舎でのんびり過ごしています^^

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話題のクレープ屋で

17/10/20 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 土佐 千里 閲覧数:208

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快晴の休日。友梨は、テレビを観ながらゴロゴロしている旦那に言う。
「今日はこんなにいい天気なんだから一緒にどこかに出掛けたいなぁ」
「俺は家でのんびりしたいから、どこか出掛けたいなら一人で行ってこれば?」
出不精の旦那はいつもこんな返事だ。
付き合ってる頃みたいに一緒に出かけたいのに。
こんな時、友梨は決まって大学時代に片想いをしていた健太のことを思い出す。
今は地元の高校で理科の教師をしていると風の噂で聞いていた。
健太に会えるわけではないけれど、地元にいるなら、暇潰しに健太の最寄り駅にでも行ってみようかな。行ってみないと分からない恋人たちのクレープ専門店というのが話題になっていた。話のネタにでも出掛けてみようかな。
バスに乗ること40分。K駅に着いた。例のクレープ屋は、駅から徒歩5分。
歩いているとすでに人だかりが見えた。あれが話題のクレープ屋らしい。
カップルの聖地と言われているだけあって、並んでいるのはカップルだらけ…でもクレープを食べに来たんだし、一人だっていいわよね。
友梨の前のカップルは、女性の声がとにかく大きく元気。そしてずっと一人でしゃべっている。ジャージ姿で、そばかすがあり、化粧っけがない。一方、隣にいる男性は、女性の話にあまり相槌もうたず、苦笑いを浮かべている。よくみると、かわいい八重歯があり、それが、なんと健太であることに気づく。
…健太ってこんな女性が好みだったの?順番がくるまで後ろで観察をしてみた。
30分くらい、待っただろうか。やっと店の入り口が見えてきた。覗いてみると、クレープ屋なのに、メニューが見えない。代わりにアスレチックのような空間が広がっている。木の丸太や網、登り棒、ジャングルジム…これらを恋人同士、協力して越えたあとに、クレープメニューがあるらしい。そんなこと知らない友梨は、ミニスカートとハイヒールで来てしまった…。
健太たちの番がくると、元気な彼女は一人で丸太をぴょんぴょんと飛び越え、ぐいぐいと網を渡る。
「アンタ、早く来なさいよ、遅いなぁ〜、先いってるわ」
そう言うとジャージの女性はあっという間に一人で遠くへ行ってしまった。
置いていかれた健太はため息をついた。
「あの〜、もしかして、健太?」
友梨は覗きこみながらおそるおそる後ろから声をかけた。
「友梨か?久しぶりだな。お前、一人で来たのか?」
「うん、話題のクレープ食べに来てみた」
「カップルの聖地っていってんのに、よく一人でこれるよな?」
「ってか、彼女に置いてかれてますけど…」
「あぁ、あれは俺の空気ヨメない嫁なんだ…」
「なぁんだ、結婚してたんだ…まぁ、あたしも結婚してるけどさ…パワフルな奥さんね、もう見えなくなっちゃったじゃない…あたしが手をとってあげてもいいよ。健太、高所恐怖症じゃなかったっけ?」
「お前、こんなとこにそんな格好でよくこれたよな、まぁうれしいけど」
奥さんが見えなくなったことを確認し、二人は手を繋いだ。こうやって、カップルの絆を深めていくのね…友梨はずっとこのままがいいと思った。
最後のジャングルジムにいくと健太は思いがけないことを言った。
「俺、大学時代、友梨のことが好きだったんだ、まさか今、こんなデートみたいなことができるとはな…」
友梨はうれしさと後悔が込み上げた。今はお互い違う道を歩んで、家庭をもっている。あのとき、勇気をだして健太に告白していれば、違った人生になっていたかもしれない。
「実は、あたしも健太のことが好きだった…健太に会いたくて、今日も健太の最寄り駅にきたの…夢みたい…」
ジャングルジムを降りると、クレープの甘い香りとともに、メニューが書かれていた。
席を立ち、健太の奥さんがクレープを頬張りながら叫んでいる。
「アンタ、遅いじゃない。隣のショッピングモール行ってるから、あとで来て」
そう言うと健太の奥さんは軽やかに、またアスレチックを越え店を出ていった。
友梨はクレープを食べ終わると、小さな扉が奥にあることに気づいた。
「行ってみるか?」と健太はまた手を握ってくれた。扉を開けると階段があり上がると見慣れたぬいぐるみや自転車が置いてあった。
「ここって…うちの物置よ」
友梨の物置の地下が、あの話題のクレープ屋だったとは…。健太の最寄りと繋がっている…。
すると、煙草を吸いに友梨の旦那が玄関から出てくるのが見えた。
こうして二人のデートは終わった。連絡先も交換せずに。
友梨は物置の外に出た。旦那は
「なんだ、結局出掛けなかったのか」と呑気に煙草に火をつけた。
それから頻繁に、友梨は寂しいときに物置に行き、小さな扉を開き、クレープだけ食べに行くようになった。
またいつか健太に会えるかもしれないという期待を込めて…。でも、あの健太が一人で、アスレチックを越えてくることはもうないだろう…。


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