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和倉幸配さん

ショートショート好きが高じて、自分でも書いてみたいと思うようになりました。精進して、少しずつ上達したいと考えています。よろしくお願いします。

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充電器

17/10/19 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 和倉幸配 閲覧数:162

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「よーし、充電完了。百パーセントっと」
 デートの帰り、駅へ向かう道すがら、ミカはそう言って「うーん」と背伸びをした。
「何だよそれ」
「こうやってタクと会うとさ、何か充電される感じがするんだよね」
「充電?」
「今週は仕事でも色々あってさ。電池切れ寸前だったんだ。だけど、もう大丈夫。タクのおかげでまた頑張れそう」
 ミカは両手でボクシングのような恰好をする。
「要するに、僕はスマホとかを充電する充電器みたいなもの、っていうこと?」
「フフ、そうかもね。私にとっては」
 そう言って、屈託のない笑顔を見せる。

 ミカとの出会いは数か月前、会社の友達がセッティングしたコンパでのことだった。
 可愛い子だな、と一目見て思った。勇気を出して話しかけてみると、趣味が合って、すぐに意気投合した。それから間もなく、交際が始まった。
 それなりの恋愛遍歴を持っているらしいことは周りから聞いていた。でも、付き合ってみると、全然すれた感じはしなかった。少し気まぐれではあるけれど。
 何より僕は、ひまわりみたいなミカの笑顔に強く魅かれた。その笑顔を見るだけで、幸せな気持ちになれた。
 それからは、休みのたびに二人で過ごした。
 ミカは、じーっと黙って同じ方向を見詰めるだけの映画よりも、向き合っておしゃべりできるハンバーガーショップが好きだった。
 お洒落なワインバーよりも居酒屋の方が良いと言って、二人で大ジョッキを何杯も空け、馬鹿笑いをしたりもした。
 それが当たり前の日常として、いつまでも続くのだと、僕は勝手に思っていた。

 会社で大きなプロジェクトを任されてから、僕は仕事で残業をすることが多くなり、休日出勤も続いた。ミカともしばらく会うことができなかった。
 その日も僕は残業をしていた。思ったより早めに仕事が片付いたので、夕食がてら一人で軽く飲んで帰ろうと思い、繁華街の方に足を向けた。
 すると、少し先の通りで、ミカの姿を見付けた。
 僕は声をかけようと思い、ミカの方に走り寄ろうとした。だが、声をかけることはできなかった。
 ミカは、知らない男と一緒に歩いていた。
 腕を組んで、とても楽しそうに。

 この時、僕は初めて気付いた。充電器は、自分が電源となって充電できる訳ではないということに。
 ミカにとっては、恋をすることそのものが電源なのだろう。そして、電池が切れかけたミカは、新しい充電器を手に入れた。それだけのことだ。
 僕は、電源との間を繋ぐことだけが役割の、交換可能な存在に過ぎなかった。

 でも、それも悪くないのかもしれない。
 遠ざかる二人の姿を黙って見送りながら、僕はそう思った。
 好きな人を充電してあげられるのならば。そして、百パーセントの笑顔を見られるのならば。
 きっと、そういう愛の形もあるだろう。


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