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浅縹ろゐかさん

本格的に創作活動を始めて、2年目になります。

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車窓にて思うこと

17/10/18 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件  浅縹ろゐか 閲覧数:212

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 昔、人間は車という乗り物で恋人とデートをするという風習があったらしい。

 「先生! そろそろ昼休みにした方が良いですよ!」
 元気な声が聞こえて、僕は現実世界へと意識を移行させる。小さい刷毛で丁寧に手元の物質を掃いていたところだった。この『鉄屑の墓場』と言われる遺跡群の、全容を明らかにしようとしている。これが僕の仕事だ。
「ああ、分かったよ。もう12時近いのかい?」
「一寸前ですけど……。今日は、混む前にランチどうです?」
「そうだね。そうしよう」
 そうと決まれば、彼女の準備は早い。ベースに戻り土埃にまみれたマスクと作業着を脱いで、早速ランチへと向かうことにした。この土地のことについては彼女のほうが詳しいので、ランチの店については彼女の行きたい店へ行くことにした。彼女は、助手であり僕のパートナーである。簡単に言うと恋人である。
『目的地を設定して下さい』
「サーダ旧市街」
『目的地を設定しました。運転を開始します。シートベルトをしてお座り下さい』
 機会音声に従い彼女は目的地を選択する。座席に座ってシートベルトを締めながら、改めて窓の外を見回す。何も無い。只管に荒廃した砂地が広がっている。この発掘所から、サーダ旧市街までは近い。ここから1番近い街である。人間が運転する車というものは、ずっと昔に無くなった過去の物である。僕も遺跡でしかお目にかかったことが無い。僕らが乗っている乗り物は昔風に言えば、自動運転装置付き水陸両用自動車といったところであろうか。目的地を音声で設定して、後は自動運転に任せるだけである。
『目的地に到着しました』
 AIの音声が響くと、シートベルトのロックが解除されドアが開く。此処の町はまた1つ独特の風習を持っている。水上都市であるサーダ旧市街は、水が潤沢にある土地柄から手漕ぎのボートというアナログな乗り物がまだ残っているのだ。街の彼方此方にいる船頭に声を掛けて、店の近くまで運んで貰うというものである。僕らも早速馴染みの船頭に声を掛けて、店へ向かうこととなった。店の近くまで運んで貰い、料金を支払うための体内チップをスキャンした。彼女の目当ての店というのは、所謂隠れ家的な店であった。
「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」
 店員に案内されるまま僕達は、窓辺のテーブル席へと腰を下ろした。ランチメニューと書かれたものは、どれも遺伝子組み換えされ味や品質が高品質に保たれているものばかりである。
「ご注文はお決まりですか?」
 ミネラルウォーターのパックを持って現れた店員に、メニューを伝えて漸くひと段落。食事が運ばれるまでの間、仕事の話がはずんだ。『鉄屑の墓場』と呼ばれはするが、職場としては明るいものだと彼方此方の遺跡発掘に携わってきた身として思う。
「先生はどうして遺跡発掘を?」
「幼い頃に博物館で自動車を見てね。ああいう機械というものを探してみたくなったんだ」
「なるほどねえ、じゃあ夢は無事に叶ったという訳かしら?」
「まあ、そういったところかな。こんなに論文漬けになるとは思っていなかったけど……」
 食事が運ばれてきて、ひとまず頭の中から論文のことを追い出した。遺伝子組み換え済みの高品質ハンバーグが、この店の売りらしい。初めて訪れる店では、大抵見せの売りの品を注文してしまうことが多い。
「さあ、食べよう」
「美味しそうね、いただきます」
 彼女の方は遺伝子組み換え済みの卵を使用した、ふわふわのオムライスを注文していた。2人で食事に舌鼓を打ち、お腹も膨れたところで少しお茶を飲む。紅茶の茶葉というのも現在は完全に人工的に作られるようになり、様々な品種が作られている。どれも香りも味も一級品である。
「なかなか、休日に出掛けられなくてすまないね」
「ランチデート、私は好きよ?それに、先生は論文も忙しいし」
「ああ、折角忘れていたのに……」
「その忘れん坊の尻を叩く役目、というのもなかなか悪くないしね」
 彼女は悪戯好きな子供のように、にこりと笑ってみせる。さて、そろそろ発掘所に戻らなければならない。行きと同じ様に、途中までは手漕ぎのボートでその先は例の自動車で帰る。手漕ぎのボートの揺らぎはどこか懐かしいような心地がした。


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