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ケイジロウさん

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コーラとジャスミン茶

17/10/16 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:115

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 今日の学校もなんとなく終わっていく。杉山はげた箱でローファーに履き替えた。女子がキーキー騒いでいて、男子はワォーワォー騒いでいる。まるで繁殖期の動物たちのように騒いでいる。
 一方で杉山はこのままなんとなく帰り、なんとなく夕食を食べ、なんとなくテレビを見て、なんとなく寝るのだろう。そして、翌朝なんとなく学校にいく。いつも一人だ。この「なんとなく」はおそらく永遠に続くだろう、と破壊的に杉山は思うのであった。
「おーい」
 杉山が校門を出ようとすると、誰かが誰かを呼んでいる声が聞こえた。しかし、杉山とは全く関係のないことなので、下を向いたまま校門を出た。
「おーい、すぎやま、待てよ」
 誰かが杉山に駆けよって来た。山田だ。下校時だというのにまだ寝ぐせが頭の左側にくっきりとついていた。夕暮れの秋の風が杉山には涼しく感じたが、小太り気味の山田にはまだまだ夏のようで、半そでのワイシャツから出ているチョリソーのような腕は汗ばんでいた。
「おう、たまには一緒に帰ろうぜ」
 山田は息を切らしながら言った。杉山はこんな時何と答えていいかわからず、下を向いて歩き始めた。
「ふー、今日も暑いな」
 山田が鼻の下の油をタオルで拭きながら言った。
「それにしても、今日の国語の時間、あれは面白かったな」
「……」
「清原だよ、清原。アイツ、島崎藤村のことを『しまざきふじむら』なんて読んで、あれはウケたな」
「ぷっ」
 杉山もつい吹き出してしまった。確かに、あの一部始終は面白かった。
 ひととおりクラスの笑いが落ち着いた後、今度は山田が、「『破壊』の作者は誰ですか」と先生に差された。山田は明治調で恭しく立ち上がると、「しまざきふじむら」とボケたのであった。清原を除く全員、気が狂ったように笑った。杉山も久しぶりにクラスの笑いに参加した。
「いやいや、オレも名字の『シマザキ』は読めたけど、確かに名前をどうやって読むかはわからなかったんだ。でも、あの清原が言うから笑っちゃうよな。あのガリ勉気取りの清原が。ははは。ザマーミロだ」
 気が付くとコンビニの近くまで二人は歩いていた。コンビニまでこんな近かったっけ、と杉山は首を傾げた。
「おい、コーラ飲もうぜ」
「……」
「なんだよ、おまえ、財布、家に忘れたんだろ。全くしょうがねーな。奢ってやるよ」
 山田は「来い」と杉山を手招きしながら、コンビニに入っていった。杉山も山田のでかいお尻を見ながらコンビニに入った。
「ちょっと、トイレ行ってくるわ」
 山田が両足をもじもじさせながら言った。先から我慢していたのだろう。
「これで買っといて、オレのはコーラ1.5ℓで、お前も好きなの買え」
 と山田は財布を杉山に渡した。
「えっ!?」
 杉山は財布を返そうと山田を見返したが、山田はそそくさとトイレに消えていった。
 杉山は山田の財布をしばらく眺めた。ビニールがところどころ破れた二つ折りの財布だ。中に何が入っているのか知らないが、他人の財布など持ったことなかった杉山にとって、その古ぼけた安っぽい財布はとても重く感じられた。
 杉山は嬉しかった。無論、飲み物を奢ってもらえることではない。山田が財布を自分に預けたことがうれしかった。自分を信用していることではないか。
 なんだか目頭まで火照って来たので、杉山は山田がトイレから出てくる前に素早くコーラとジャスミン茶をレジに持って行った。杉山は自分の財布からお金を出し、二つ分支払った。
 外に出て、ジャスミン茶のキャップを開けた。こんなにもジャスミン茶がおいしいものとは杉山は今まで知らなかった。下校時に寄り道なんて、ちょっと不良チックだ。
 しばらくすると山田が出てきた。ワイシャツがだらしなくズボンからはみ出していた。
「おまたせ」
「あ、これ」
 杉山はコーラと財布を山田に渡した。
「お前もなんか買ったか」
「あ、これを」
 山田はプシュっとキャップを開けると、ゴクゴクとコーラを流し込み始めた。
 清原が単語カードかなんかをにらみながら、コンビニの前を通り過ぎていった。
「おーい、ふじむらー、『破壊』の作者はだれだっけー、そのカードに書いてあるかー」
 清原は立ち止まって、二人を睨みつけると、怒ったように去っていった。
「あの、やまだ、これ、ありがと」
「あ、いいんだよ、そんなん。今度はお前が奢れよ」
 山田はコーラの炭酸に顔をしかめながら言った。
「うん、わかった、今度は僕が奢るよ」
「ははは」
 今度は僕が山田に自分の財布を預けよう、と杉山は心の中で誓うのであった。


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