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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますが、読んで感想、批評等いただければと思います。よろしくお願いします。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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桜の木の下で、あなたとデートを

17/10/15 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:1件 文月めぐ 閲覧数:301

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 よく、ドラマや映画で耳にする「余命」という言葉。その言葉が、俺の目の前に突き出されるなんて、想像もしていなかった。医師が言った「余命一年」はどんな言葉よりも重く、俺と桜子の前に立ちはだかった。

 季節は春。桜子が入院している病室の窓からは、病院の隣にある公園の桜並木がきれいに見えた。俺たちは狭い病室で小さなお花見会を開いた。桜子でも食べられるように、お弁当箱に小さなおにぎりをいくつも詰めた。
 「来年は、公園でデートしようね」
 桜子はそう言って、微笑んだ。俺はその言葉に、力強くうなずいてみせた。絶対に桜子の癌を治してやる。そう心の中で誓った。
 外では風が吹いていて、桜の花びらがひらりひらりと舞っていた。一年後の未来でどんなことが起こるか、このときはまだ知らなかったんだ。

 白いシーツにぽたりと落ちた雫は、じわじわと広がり、影をつくり出した。白い壁に囲まれた、白い頬をした桜子。桜子に似合う色は白じゃない。桜のような淡いピンク色だ。だけど、彼女の頬の色が再び色づくことはない。
外では雨が降り注ぎ、桜の花をぼたりぼたりと地面に突き落としていく。俺は深夜にもかかわらず、雨の中、病院の外へと飛び出した。
 頬を滑り落ちていく雫が、雨なのか、涙なのか、もうわからなくなっていた。散っていく桜の花びらが、桜子の命の終わりを告げているみたいだった。
 「来年は、公園でデートしようね」
 その言葉は俺たちの合言葉だった。何度も口にすることで現実になるような気がしていた。だけど、もう桜子と一緒に歩くことはできないんだ。
 俺の傍らにそびえたつ桜の大木は、なんの感情も持たずに、ただじっと俺を見下ろしている。そっと幹に触れると、ごつごつとした感触が掌に伝わってくる。じっとりと濡れた幹は、ひんやりとしていて、俺の心をなぜか穏やかにさせた。
 
 どれくらいそうして幹に触れていたのだろうか。気がつくと雨は止んでいて、朝日が顔を出し始めた。水滴をきらりと反射させた桜の花びらは幻想的で、思わずため息が出るほどだ。まだほとんどの花は開ききっておらず、つぼみのままだが、それでもきれいだ。つぼみの一つに手を伸ばし、触れてみる。硬いような、柔らかいようなその感触に、生命の力強さとはかなさが宿っているように感じた。ああ、桜子と同じだ、と思った。この花は桜子の生まれ変わりだ。
 
 来年も、再来年も、桜の花が咲いたら必ず会いに来るよ。そうしたら、俺と一緒にデートしてくれ。
 風がいたずらをするように俺の髪をなで、桜の花びらを舞わせた。
 掌に乗ったひとひらの花びらに、ふっと息を吹きかける。
 花びらは天まで昇って、空に吸い込まれた。


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このストーリーに関するコメント

17/11/05 霜月秋介

文月めぐ様、拝読しました。

主人公の心情がひしひしと伝わってきました。
恋人とデートが出来る今を当たり前と思わず、大事にしたいと改めて思いました。
心揺さぶるお話を有難うございます。

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