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井川林檎さん

ネット小説を書いております。 PR画像はカミユ様からの頂き物です。

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準備万端

17/10/14 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:1件 井川林檎 閲覧数:364

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 はっと起きたら9時。
 約束は10時。駅前の赤尻猿のモニュメント前だ。

 占いによると、最もラッキーな時間と場所だ。
 (絶対遅れちゃ駄目)
 
 シャワーを浴びる。
 じゃーっと流しているうちに、地獄の業火のような高温になる。死ぬ。

 それで水浴びをした。
 肌寒い時期、正直辛い。けれどこれが愛。
 
 (あああっイケ男君のためならっ)

 氷のように冷たくなった体をバスタオルで拭く。勝負下着。そして髪を乾かす。
 ところが、ドライヤーも臍を曲げている。

 動かない。
 おかしいなとONOFFしているうちに、ぴちっと音がして、ドライヤーが半分に割れた。ぱらっと小さな部品が零れ、びよよんとバネが飛び出した。

 時計を見ながらわたしは焦る。
 そうだ、扇風機。

 引っ張り出してきて強風にしたら、あばばと口が揺れて髪の毛が後ろに吹っ飛んだ。

 寒い。
 だけど、髪の毛はおさまった。風を受けたおかげでいい感じの流れがついた。


 選んでおいた服を着て、メイクする。
 ファンデーション。眉とチーク。
 目元と口元を作る段になってぎょっとする。

 普段化粧をさぼっているツケがこんな時に。
 ローズピンク、ゴールドオレンジの口紅は、ぼろぼろで、変な臭いがした。
 唯一無事なのは紫のグロスだ。

 (なんでこの色持ってるんだろ)
 こんな謎、今浮上してほしくない。

 アイシャドウには、黴がはえていた。
 いくつかある中で使用可能な色は、これまた冷たそうなホワイトとアイスブルーである。
 大丈夫。クールビューティ―。

 冷え切っているし、顔はこんなだし、雪女か。
 しかも服は、露出の高い白いブラウス。
 (寒っ)

 時間がない。
 木枯らしの吹く外に飛び出し、ひた走る。
 バス停に到着すると、ちょうどバスがきたので飛び乗った。
 
 走り出してから青くなった。
 (これ、大回りのバスだ)

 まっすぐ駅に向かえば15分程度で到着するはずが、このバスだと1時間以上かかる。
 
 「次に降りる方は」
 アナウンスが鳴った瞬間、ボタンを押す。ピンポーン。
 すぐにバスは停まり、わたしは一人、降り立った。

 息をついたのもつかの間、今度こそわたしは倒れそうになる。
 大変だ。このバス停だと、次のバスが来るのは午後だ。
 
 (デートの神様お願い)

 ここは国道だ。
 わたしは意を決した。
 親指をぴんと立て、歩道から身を乗り出した。ヒッチハイクである。

 (頼む停まって)

 幸い、すぐに車は止まった。高級車だ。
 おじさんが運転している。一人だ。
 駅までお願いできますかと言うと、おじさんは、ちょうどその方向だから問題ないと笑った。
 勧められるまま助手席に乗ると、車はすぐに走り出す。
 
 しばらく信号はないから、道はスムーズだ。
 これで間に合うと安心していたら、さわさわと太腿をまさぐられた。
 はっとすると、おじさんがはあはあ言っている。ウインカーを出しているが、そっちに曲がったら駅じゃない方に行ってしまう。

 どうやら、ラブホ街に入ろうとしているらしい。

 ぶちん。とうとうわたしは切れる。
 時刻は9時55分。
 
 「ちくしょうくそたれ死ね」

 まさぐる手を掴むと、親指を握って捻ってやった。
 変態は牛みたいに鳴く。

 キキキキ。
 車はスピンし、歩道に乗り上げて停まる。
 わたしは助手席から足を突き上げて、変態の顔を蹴った。
 勢いでドアが開く。おっさんは、シートベルトをしていなかったので、そのまま外に転がり出た。

 ええいままよ。
 わたしは運転席に乗り移る。ぶるる。エンジンを入れる。
 
 こういう時に限って車の波は途切れない。

 入れて。
 わたしを列の中に入れてよ。お願い。

 ……ぷちん。

 気が付いたらわたしは車を発進させ、列の隙間に突っ込んでいた。
 バカヤローと後ろから叫ばれたので、窓を開いて振り向き、ありったけの目力で睨んでやったら静かになった。

 あと一分。



 駅前に来た。
 もう、迷惑など考えていられない。適当に停車すると、あとは駆け足で赤尻の猿を目指す。

 ぱっぱー。
 邪魔な停め方をしてしまったらしい。交怒りのクラクションが鳴り響いている。
 知るかこの。


 走ってゆくと、猿のモニュメントによりかかるようにして、イケ男君が待っていた。
 わたしを見て、目を丸くした。

 ああイケ男君まじカッコいい絶対今日モノにしたるげっへへ。


 「寒くない」
 聞かれる。
 ううんちっとも。だってこれから、あなたに温めてもらうんだもの。

 「そうじゃなくて」
 物問い顔のイケ男君の視線の先は、わたしの下半身。


 わたしはスカートを、はきわすれていたのだった。


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このストーリーに関するコメント

17/11/05 霜月秋介

井川林檎さま、拝読しました。

最後の最後でとんだ大失態でしたね。いや、最初からでしょうか?(笑)デートの待ち合わせに何がなんでも間に合わせようとする、主人公の必死さがよく描かれてると思いました。

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