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のあみっと二等兵さん

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黒猫である私は、幸せを運べはしないのだろうか。

17/10/13 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 のあみっと二等兵 閲覧数:265

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カタカタと窓枠を揺らすと、彼は目を覚ました。そしてゆっくり起き上がって窓を開けてくれる。私はその隙間から身体を滑らせて、彼の───次郎の膝上へ跳んだ。
「クロ、おはようさん」
ゴロゴロと喉を鳴らしてそれに応える。
布団から出ると、冷えたご飯の入った茶碗と、冷蔵庫から出したタッパー、そして小皿と箸を器用に持って小さなテーブルに置く。とてもゆっくりとしたその一連の動きを、おとなしく見つめる私の前に、
「お前も好きだろ?」
小皿に取り分けた煮魚を差し出した。私はそれを敢えてゆっくり食べる。彼の支度が終わるまでに食べ終えるくらいの速度。
茶碗のご飯をかき込むと、歯磨き、服選び───と言っても代わり映えしないのだか、彼なりに気にしているのだ。
あのヒトと会う為に。
時計を見てアタフタと戸締まりをし、帽子を手に玄関に向かうその足下へと走った。彼がドアを開けて鍵を締めるまでの流れで外に出る。毎日やっているから完璧だ。
ゆっくりと杖をついて歩き出す彼の少し後ろをついて行く。

着いたのは公園。彼は辺りを見回してから、目的の存在を見つけると、
「お早う御座います! トキコさん!」
笑顔でそう言いながら、帽子を軽くひょいっと浮かせた。しかし疲れてよれた毛糸の帽子がくにゃりと変形して再び頭上に戻って行く。せめてハットならもう少し格好もついたろうに。
同じ事を思ったのか、そのヒト。トキコさんも短いため息を返すだけだった。車椅子に座る上品な女性。その足元には大型犬。私を見つけると激しく吠えて、彼女が座る車椅子をガタガタと揺らした。基本、馬鹿な犬だ。
「また黒猫なんか連れて! 不吉じゃない。わたしに近づけないで頂戴!」
「トキコさん。クロだって好きで黒い毛色な訳じゃないよ」
これもいつものやり取り。なんだかんだこんな感じで始まっては、日が暮れるまで話をする。毎日同じ時間に此処で会う。私はそれに同行し、少し離れた植木の隙間で眠るのだ。
■■■■■■
激しい雨が体温を奪っていく。動けないのは寒さだけでは無かった。私の母親はしつこいカラスの気をそらす為に飛び出して行ったが、私達の居場所は
気付かれ、兄妹がみんな連れて行かれるの中、私はただ逃げる事しか出来ずにいて。だけど、もうダメだ。囲まれている。覚悟を決めた、瞬間。
目の前のカラスが転がった。カラス達は私では無く別の方を激しく威嚇する。
「あっちへ行け!」
杖を振り回し、カラスを追い払う1人の老人。その片腕には───私の母親が抱かれていた。
老人の剣幕に気圧され、カラスの群れは去って行った。それを確かめて。
「ごめんな……シロ。守ってやれなくて……」
服が濡れ、汚れるのも構わずその場に座り込んだ。白い身体を紅く染め、グッタリとした私の母親を優しく撫でて。母親はハッキリした声で一度鳴いた。その声に応えた兄妹は私だけ。間も無く母親も死んだ。
周りも気にせず泣きじゃくる老人に近づく車椅子があった。
■■■■■■
怒鳴り声で目が覚めた。次郎とトキコさんが喧嘩をしている様だ。珍しい光景だった。
「何であんたは───」
そこまで言い掛けて、彼は口を閉ざした。そしてそのまま背を向けて帰ってしまう。
彼を追いかけようと植木の隙間から出てきた私の身体に、砂に混じった小石が軽く当たった。
「どうして………私は本当は───」
人間だったら聞き取れないくらいの声。
でも私には、ちゃんと聞こえた。
しかし、私は彼の方が心配だった。私を助けてくれたあの日も、興奮したせいか暫く動けなくなっていたから。
佇む彼の姿が見えた。突っ立ったままで独り言だ。
「……やっぱり……謝ろう」
心を決めて戻ろうとした時、あの犬の声が響いた。いつもと明らかに吠え方が違う。
次郎は慌てて走ろうとするが、思うように動かない脚だ。私は先に、犬の声を頼りに公園を疾走した。公園の出口、横断歩道の途中で車椅子が止まっている。故障…?次郎は?まだ来ない。
どうしたら───
私は一瞬迷って。彼女の方に走った。犬は主人を心配しているのか、その膝に前肢を乗せている。余計に動けない。底抜けの馬鹿だ。
跳躍した私は犬の頭に着地後、彼女の膝に乗った。御主人の膝に乗った私への憤慨した感情に挟まれる。
再び犬の頭に跳んでから歩道まで走る私を怒りで追いかける犬が、全力で車椅子を引っ張る。もう大丈夫。君が馬鹿で良かった。
「クロちゃん…っ!?」
悲鳴に似た声。細いタイヤが一瞬見えて。空がとても近かった。

「本当は私───」
トキコさんの声。母のお腹で聴いてた。貴女も母を世話していた。彼よりもショックで、同時に感謝もしてる事、彼に話して。誤解を解いて。
そしたらまた二人の会話が、時間が、気持ちが此処で繋がるから。


あの煮魚、彼にまた作ってあげて下さい。
これからも次郎をお願いします。


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