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本宮晃樹さん

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ゲーム理論でマドンナを射止めろ

17/10/12 コンテスト(テーマ):第115回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:139

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「わざわざこんなところまで人を呼びつけ」ぐるりと喫茶店チェーンの店内を手振りで示し、「俺の休日を浪費させた理由が!」憤懣やるかたないといったようすでかぶりを振った。「社内のマドンナにアタックすべきかどうかを相談するためとはね」
 恐縮するほかない。同僚がこんなにおっかないやつだったとは。「すまん」
「なあ、相談するまでもないってことくらいわかりそうなもんだけどな」
「どっちの意味でかな」ぼくはおそるおそる、「脈ありのほうかい、もしかして」
 この世にこれほど愚かな人間がいるのかといった表情。「本気で言ってるのか?」
「もちろん冗談だ」たったいまそうなったのだが。
「わかってるならよろしい。念のため言っとくが、あの娘は月平均三十人の男からディナーに誘われてる。お前がその有象無象に加わったところでなんの足しにもならん。いいな」
「ぼくはあいつらとはちがうぞ」
「みなさんそうおっしゃいます」ニヒルな同僚は伝票を指で弾き、お前が払えよという意志表示をした。「じゃあ俺は帰るぞ。実に無駄な時間だった」
「正味の可能性はどのくらいあるかな」
 彼はぼくのすがるような目を見て観念したらしい。諦めて腰を下ろした。ショルダーバッグから筆記用具を取り出すと、持参のメモ帳に猛烈な勢いでなにやら書き始める。ものの数秒で認め終え、指で弾いてよこした。

図1 お前の告白が絶対に成功しない理論的根拠
A〇―R→B●―R→(10, −1,000,000)
 |    |
 D    D
 ↓    ↓
(0, 0) (−10, −100)

 ぼくは早速降参した。「説明してくれるんだろうな」
「この図はゲーム理論でいうところの展開型ゲームというやつだ。小学校で習ったと思うがね」
 少なくとも母校はそうしたエキセントリックな教育方針じゃなかった。「いや、あいにくだけど」
 同僚はいまいましげにうなった。「プレイヤーAとBがいて、Aが白、Bが黒の丸で表現されてる。仮にAをお前、Bをマドンナとしようや。ここまではいいな」
「たぶんな」
「プレイヤーは行動に応じた利得を得る。両者とも完全に合理的なプレイヤーなのが大前提だ」
「RとかDはどんな意味かね」
「Rは積極的、Dは消極的な行動を示す。今回のケースならAのRは告白する、Dはしない。BのRは告白を受ける、Dは受けない」
「かっこ内の数値は?」
「それぞれA、Bの順で得られる利得の具体的な数値だ」小さく肩をすくめた。「ま、俺が勝手に決めた恣意的なもんだがね」
「ということは」こめかみを揉みながら、「たとえばぼくが告白しない場合、両者とも0だからなにも得られない、というわけか?」
「見直したよ。多少はものを考えられる脳みそがあるんだな」
 いまは耐えるべきときだ。当面の用が済んでからこいつを始末したって遅くはない。「おほめに与りまして光栄でございます」
「ここからが本題だ。図を見ればすぐにわかる通り、お前にしてみれば最終的にBがRを選択し、利得10を得るのが最善の手だな。だからお前は絶対にRを選ぶ、つまり告白するしかない」
「答えは出たようだな」
「そう急ぐなよ。マドンナの利得を見ると、どっちもひどいマイナスになってるな。これはお前と付き合うのはそれくらい悲惨だって意味だぞ」嘲笑的に笑って、「お前があんまり不細工なもんだから、彼女はたとえ断ったとしても100点ものマイナスになる。でもRを選ぶよりは一万倍もましだから、当然Dが選択される。お前はフラれる。ついでに傷心のあまりマイナス10点までついてくる」
「ええと、それで?」
「そうなるとお前にとってもっともましな手はなんだ。くり返すがマドンナがDを選ぶのはほとんど確実だとして」
 必死になって図とにらめっこする。「告白せずに0点の利得を得る……?」
「よくできました。その選択がこの図のナッシュ均衡だ」ぽん、と肩を叩かれた。「指をくわえて見てるのがいちばんってことさ」
 こんな議論で納得できるやつがいるか? 「なあ、なんとかならないかな」
「サンドイッチひとつください」じろりと睨まれた。「お前のおごりだぞ」

図2 お前がマドンナと付き合える可能性のある手
A〇―R→B●―R→(10, −1,000,000)
 |    |
 D    D
 ↓    ↓
(0, 0)  A〇―R→(1, −1,000,000,000)
      |
      D
      ↓
     (0, −100)

「ぼくが新たになにかするってことかい、これは」
「そうだ。断られたあと、お前はストーカーになるかどうかを選べる」
 片眉を上げて先を促す。「ほう?」
「その場合彼女は恐怖に満ちた日常生活を送ることになり、たいへんな損失を被る。いっぽうお前が負け犬よろしく引き下がるなら、マドンナには平穏な生活が待ってる。このケースのナッシュ均衡を述べよ」
「ちょっと待ってくれ」よく考えろ。「ぼくのRに対してマドンナがDを選んだ場合、ぼくが得られる利得は1か0。ここまでは合ってるかな」
 やつは満面の笑みでうなずいた。
「合理的なプレイヤーであるぼくは1の利得を目指してストーカーにならざるをえない」なんてこった。曙光が射してきたではないか。「彼女は一億点もの損失を出す羽目になる。それならまだマイナス百万点のほうがましだ!」
「おめでとう。A−R→B−Rが図2のナッシュ均衡だ。お前は彼女と付き合えるぜ」
「でもどうやってマドンナはぼくがストーカーになるような危ないやつだってわかるんだ?」
「明日からでもいい、お前がそういう根暗な野郎だってことを暗に明に表現してやればいいさ。なんなら俺がうわさを広めてもいいぞ」
「本当か? ぜひ頼むよ」感動で涙が止まらない。「恩に着る」
「いいってことよ」
 われわれは重厚な握手を交わした。交渉成立だ。

     *     *     *

 ほどなくして、同僚とマドンナは付き合い始めた。
 その手腕は実に見事だった。ぼくが危ない野郎だと彼女に警告したという功績が好意的に評価されたのだそうだ……。


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