1. トップページ
  2. やまとなでしこ

キューさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

やまとなでしこ

17/10/11 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 キュー 閲覧数:53

この作品を評価する

「佳乃、ちょっと話がある。入るぞ」

「今晩はもうよしていただけない。明日の支度がありますから」

「そんなもの、話を聞きながらでもできるだろう」

「ご冗談でしょ。朝一に英学の小試験を控える身です。もういっぺんらっておきたいの。そうでなくても今日は誰かさんの連れていらしたお客のお相手を強いられて、ずいぶん無為に過ごしてしまったことだし」

「へらず口を…まったくもって可愛げのない」

「お兄さまに可愛いなどと思われなくってもかまいません」

「これだ。女の分際で私塾になど通うものだから見ろ、このていたらくだ」

「あら、どのていたらくよ。お聞かせ願いたいものだわ」

「兄に向かってその反抗的かつ生意気な態度。したり顔で誰彼と見境なく生兵法な論をぶっては、やり込めた気になって得意がる浅はかさ。心得違いも甚だしきは学問する女人とやら、だ」

「おっしゃりたいのはそれだけ」

「だいたい、番茶も出花の年頃だというに、白粉けもなくカサついた肌にひっつめ束髪の地味づくり。本にばかりかじりついていてぜんたいにこう、潤いというものがない。色気皆無だ。おまけにその堂々たる目付きの悪さときたら、おまえのそのひねた心ばえそのものといった具合だ」

「何ですって、あんまり失敬な」

「その点、隣家のご令嬢はひと味もふた味もちがう。茶人一族の名に恥じることのない、たおやかな身のこなし。色あくまで白く、みどりの黒髪もつややかに、微笑む口元の恥じらいに満ちた奥ゆかしさーー誰かのように蜜柑数房をいっぺんに頬張ったまま大笑いするなぞということは決してなかろうーーああいうのを大和撫子というのだ。年同じくしてこの差、まさに月とスッポン…爪の垢でも煎じて呑むがいい」

「シャラップ、もうたくさん。そんなごたくを並べるため、わざわざ私の貴重な時間を奪いにいらっしゃったというわけ」

「なに、俺は愛する妹の、本来婦女子のもつみずみずしさを取り戻さんがためという、兄心でだな…」

「余計なお世話というものを。だいたい、ぼってりと塗りたくった白壁のどこがみずみずしくってよ。そんな目くらましに気づかない男の方なんぞというものは、よほどおめでたいったらありゃあしない」

「ふう。こいつは予想以上の難物だ」

「いま何とおっしゃった」

「いやこちらの話…ときに佳乃、今日連れてきた客人をどう見た」

「ご学友の室井さんとやら。どうと言ってーー」

「ファースト・インプレッションというやつだよ」

「ふーむ…膝と肘のぬけたほこりくさい詰襟と、すり切れた学帽がよくお似合いでしたわ」

「そうじゃあなしに。男としてどう思う」

「お兄さま、私に何を言わせたいの」

「まあ聞け。あいつとは大学入学以来の朋友で、気心も知れている。学内きっての秀才で末は博士か高級官吏かという、将来性は充分だ。口下手だが、芯の強い温厚な人柄で、男ぶりも悪くない。人品卑しからぬ高潔な男だと請合うよ。そこでどうだ、ゆくゆくは盃を取り交わすことを前提に、ひとつ交際してみるというのはーーー」

「おやまあ、あきれたことを。残念ながら興味もございません。だいいち私は勉学が生き甲斐の色気皆無の女ですからね」

「なあに、おまえだって白皙と評判の俺の妹だ、みがけばちっとは見られるようになるさ。室井だとて俺の面差しを重ね見て嫌がろうはずもない」

「妙な自信がおありなさるのね」

「とにかく一度二人で、上野の花見にでも行ってみちゃあどうだね…まあ桜なんぞより室井の薄紅色の頬のほうが一見の価値ありだがね。フフフ」

「……」

「この折だ、人出はあるだろうが、寄り添い歩けばもみくちゃにされる気遣いはない。奴は身の丈低からず、肩幅狭からず、何というかこう、頼り甲斐があるのだ」

「…お兄さま、私思うに」

「口数の少なさを案ずることはない。あいつの目をじっと見つめるに、口よりも雄弁であることが知れようから。俺にはよくわかっている」

「お兄さまこそ室井さんに思し召しがおありね」

「ばっ、ばかめ、いきなり何を」

「赤くなっておられるところなぞ、お隣の大和撫子よりかよほど可憐というものよ。ホホホ。ようござんす、こう見えて私、融通は利くほうでしてよ。かくなる上はお二人ご念友どうしの交わりを、妹として陰ながら支援いたしましょう。花見にでもお二人でいらしたら? さあ、お話はお済みね。私忙しいの、すみやかにご退出願いますわ」

「むぅ……」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス