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桐生 舞都さん

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日日草ニチニチソウ

17/10/11 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 桐生 舞都 閲覧数:170

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「あのさ、私の名前って、颯人はやと君が付けたんだよね?」

晶里ひかりはこの日、植物園で六歳年上の彼氏とデートだ。
颯人は、ベンチに座って蝶々でも眺めていそうな、どこか不思議な人。
今なんか、植木鉢のお花畑を夢中になってカメラで撮るふわふわした姿がとても似合っている。
彼はレンズから目を離して晶里の方に向き直ると、にこにこして言った。

「半分正解。おばさんがね、名前はヒカリが良い。けど漢字が決まらない、って言うから、漢字辞典を見ながら子供心に提案したら、気に入っちゃったんだ。
ごめんね、小学校の時とか。新しい先生に名前読まれにくくて大変だったでしょ?」

「それは別に良いんだけど……お母さんたら、他人のアイデアでつけた名前を得意気に話してたんだね」

昔自分の名前の由来を嬉しそうに話してくれた母のことを思い出し、ため息をつく。

颯人とは親同士が友達。
よく親子でお互いの家に遊びに行ったり来たりしていた。
晶里が高校に入った時くらいから疎遠になっていたが、成人してからちょっとしたきっかけで急速に接近。今の関係に至る。
「でも、どうしてこの名前に?」
晶里が首をかしげると、颯人は写真を撮る手を止めて言った。
「うん。持ってきたアレ、見せてくれる?」
「あの写真?」
バッグから一枚のアルバムを取り出す。
このアルバムは、晶里が先日部屋の整理をしているとき、たまたま見つけたもの。
古ぼけた表紙をめくると、その中に五角形をしたピンク色の花の写真があった。このアルバム、他の写真は全て小学校の時のものなのに、右下の日付を見るとこの一枚だけは十年前に撮られたものだった。
それで不思議に思って電話をすると、彼の口からここの植物園のことが出てきたのだ。
「私ね、表紙の裏に花の写真が貼ってあるのが気になって。この日付――颯人君、私が中三の時にアルバムを見たよね?」
「うん――よく覚えてるね」
思い出す。たしか、颯人が妹を連れて自分の家に遊びに来た時に。アルバムは私の方から見せたんだっけ。
そうだ、颯人が就職してどこかよそよそしくなってた時の少し前じゃないか。
「……ニチニチソウ。」颯人はぽつりと呟いた。
「え? ニチニチ、ソウ?」
「うん。それがこの花の名前。この植物園で撮った写真だから、植わってる筈だよ」
そう言って颯人が指差した先、楕円形の花壇にピンクと白の花が植わっていた。
「写真で思ってたよりも、小さくてかわいい花なんだね」
「季節になると、毎日花を咲かせるんだ。明るくて希望があって、良いと思わない?」
「じゃあ、前向きな花なんだ」
「ぴったりだよ」颯人はそう言って花壇の前にしゃがむと、包み込むような姿勢でニチニチソウを撮り出した。レンズが今にも花びらに口づけしそう。「それで、私の名前は……?」
「うん。ニチニチソウは漢字で、日、日、草。草の字を分解すると、サ、日、十に分かれるよね。それで日の字を三つ合わせて、晶。晶里の里の字だけど、こっちは、十を“とお”と読んで、サと十とお、でサト。つまり里。さすがにこれはちょっと苦しかったなって思う」
レンズを覗く横顔は、いたずらっぽい目。
「うわぁ、随分ひねってるんだね」そんな面白い由来だったなんて。晶里はクスリと笑って言った。「花の漢字で思い付くなんて。颯人君、本当にその時小学生だったの?」
「――でも、写真を貼ったのは、晶里が中学の時だからね」
「え?」
颯人が、カメラから手を離し、すうっと立ち上がった。
晶里は驚いた。
彼の手には、――指輪。


「――一生大切にします。結婚してください。」

日日草の花壇に止まった蝶が羽ばたき、その花を揺らした。




晶里、ごめん、アルバムの話、あれは嘘だ。
式の前までに言わなきゃと思って。
本当は、晶里の名前は思い付き。

当時おばあちゃんに買ってもらったばかりの漢字辞典が嬉しくて、テレビを見るときも遊ぶときも、何をするにも辞典を開いてた。
もうマイブームってやつね。
だから晶里が生まれたときも辞典持っていって、母さんに怒られた。

漢字は、その中で見つけた“晶”の字が気に入って、どうしても使ってみたかっただけなんだ。

僕が得意気に辞典のページをめくるとこ、おばさんもきっと覚えてるだろうね。ははっ、ほんの子供心じゃないか。

そう。だから、日日草の話は実は後付けなんだ。

アルバムに花の写真を貼ったのは、おまじないのつもりだった。

ほら、花言葉ってあるでしょ?あれのことね。

日日草の花言葉は、“楽しい思い出”。記録するものにはぴったりでしょ。

でも、まだあるんだ。

聞きたい?

日日草の花言葉は、他に、

……若い友情、生涯の友情、楽しい追憶、優しい、

それから……、


――“揺るぎない献身”。


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