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罪と罰

17/10/10 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:1件  閲覧数:117

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電車を降りた木下雄一は駅のホームで尻の辺りに違和感を覚えた。
ジーンズの尻ポケットに手をやると、知らない長財布が出てきた。
「え……なんで、どういうこと?」
考えても何も浮かばず、改札にいる駅員に渡すため歩き出す。
改札手前まで行くが足が止まる。渡す前に財布の中身を確認したい衝動に駆られた。
改札を出た先にある、トイレに走った。個室に入りドアの鍵を閉める。
雄一は異常な興奮を抱き、呼吸は荒れ額からは汗がにじんでいた。
目を瞑り深呼吸をして、長財布を開いた。
「ああっ!」
万札の束が目に飛び込んだ。免許証や銀行のカード類はなく、万札だけが入っていた。
そっと長財布を閉じた。
「これは駅員に渡さないと……」
雄一は血の気の引いた顔になっていた。
トイレを出て改札に向かう。だが改札手前でまた足が止まった。
渡す前に万札の枚数を確認したくなった。
衝動を抑えきれずトイレに戻ると、手を震わせながら万札を数えた。
「ひゃ、ひゃ、百枚……」
生唾をごくりと飲み込み、便座に腰かけた。
「これだけあれば……真由美に何か買ってあげられる」
三十二歳の雄一はアルバイトで生計を立てている。恋人の真由美には自分の生活で手一杯のため、最近はプレゼント一つ渡していない。
悪魔が雄一にお決まりの言葉を囁く。誰も見ていない、と。
雄一は呻きながら頭を掻きむしった。
――パアーン。
「あぶなっ……はあ、俺は罪人になるところだった」
自分でしたビンタで雄一の頬が赤く腫れあがった。
「こんなものは、早いとこ駅員に渡そう」
そう呟き改札に向かった。改札手前で足が止まりそうになるが今度は引き返さなかった。
だが……改札には寄らずに通り越して走り去った。雄一は受け入れた、罪人になることを。ネコババすることを決意した。

冷たい風が突き刺さる十二月の冬空を、汗だくで駆け抜けて繁華街に辿りついた。
心を落ち着かせるため行き慣れた定食屋に入る。
「いらっしゃい。何にしますか?」
「生姜焼き定しょ……いや、一番高いやつ下さい。それとビール、大ジョッキで」
食事をしながら雄一はお金の使い道を考える。
(さて、この金どうしよう。真由美にプレゼントでも買うか……いやネコババした金で買っても喜ばないだろ。じゃあどうする……使うか、パアッと! よし今日は贅沢するぞ)
「おばちゃん! ビールもう一杯持ってこい!」
(腹はふくれたからな。何に使うかな。今、十八時か。よし、服をビシッときめてキャバクラの女でも口説いてやるか!)
「ごっそさん。まずかったよ!」
ビールを五杯飲んだ雄一は、頬を赤らめて千鳥足で店を出る。
飲み慣れていない酒とポケットにある百万円で自分が無敵になった、と錯覚を起こしていた。
定食屋を出た雄一は、高級セレクトショップに入った。
「あー今から、女とこれだからさあ、イケてる服もってきてよ!」
雄一は腰を前後に振りながら店員に指示をした。
会計を済ませた雄一は、赤の皮パンに毛皮のコートを身にまといキャバクラに入った。キャバクラでも本能の赴くままに振る舞った。女性の胸を触り、自ら服を脱ぐと、「金ならあるぞ!」と大声で叫んだ。
店側も大目に見ていたが会計のさい問題が起きた。会計は六万円だったが雄一の所持金は二万円もなかった。
雄一はセレクトショップの服が九十八万円だったことを失念していた。
念書をとられ叩き出された。
翌日、ゴミ捨て場で目覚めた雄一は深く後悔し猛省した。
二度と人の道を外れることはしない、と神に誓った。

二週間後。
あの日以来、誠実に慎ましく暮らす雄一は、今日アパートの部屋で、二十時にテレビをつけるよう真由美に言われていたので電源を入れた。
≪さあ、今日の『生ドッキリ素人』のターゲットは木下雄一君です。彼がポケットの百万円をどうするか見てみましょう――≫
テレビの内容は、番組スタッフが電車内で雄一の尻ポケットに長財布を入れるシーンから始まった。そして雄一の、その日の行動が鮮明に映し出された。ただ、キャバクラのシーンだけは雄一が全裸だったため、ほとんどモザイク処理されていた。
雄一は放心状態でテレビを見つめていた。
――ピンポーン。
部屋のベルが鳴らされた。おぼつかない足取りで部屋のあちこちに身体をぶつけながらドアを開けた。
「警察だ! 泥棒罪で逮捕だあー!」
警官の服装をした二人の男が冗談めかして言った。
それを見た雄一は膝から崩れ落ちた。
白目をむいて失神していた。
≪あれー、最後の警察ドッキリやりすぎたかな。ネタばらしどうしよう。生放送中だからなー。いいや、フリップ出してー!≫
テレビから司会者が指示を出す。
警官の服装の男が、『ドッキリ大成功!』のフリップを掲げる。
だが雄一は、まだ失神していた。


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このストーリーに関するコメント

17/10/16 ぴっぴ

ありそうでコワいですね〜

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