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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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中途半端

17/10/10 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:264

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 中途半端だった。
 なにが中途半端かというと、ぼくが空手をはじめたのがいまから半年前ということだ。
 会社勤めをして5年、同僚たちの彼女自慢恋人自慢をまわりにきいているうち、だんだんぼくの中にも、かれらにたいする羨望がわきおこってきた。じつは社内に、これはという女性がひとりいた。ながい黒髪、すらりとした体、ぼくより年下ときくが、年上といってもおかしくないおちつきぶりだった。
 ぼくが空手をはじめた理由は、いつか彼女とデートということになれば、いつどこで何がまちうけているかしれない。暴漢に襲われることだってないとはいえない。格闘技のひとつでもおぼえておけば、いざという時、役にたつにちがいない。幸い会社のちかくの体育館で、空手を教えているのをしったぼくは、さっそく稽古に通うようになったのだった。
 ぼくは会社のみんなに、汗を流して、鍛錬することのすばらしさを、得意げに語ってきかせた。先輩たちの激しい演武や、瓦の試し割りの話にみんなは耳をかたむけた。なかでも熱心にきいてくれたのが彼女、吉田アキだった。
 ぼくが昼休みに会社の屋上で、空手の型を練習していると、彼女もあがってきて、そばからがながめられると自然、気合もこもるというものだ。
「わたしも、格闘技のファンなの」
 二人はそれからも、屋上でよくあうようになった。空手の練習をしてないときも、休み時間がおわるまで、いっしょにいるようになった。
「よかったらつぎの休み、あわない」
 ぼくの誘いに、彼女は笑顔でうなずいた。
 そして当日、駅でまちあわせして、最寄りの喫茶店にはいった。会社でみるよりもいちだんと彼女はさわやかな印象がした。話はもっぱら、ぼくの空手が中心だった。
「稽古は、きびしい、それともたのしい」
「そのどっちもさ。最初はつらくても、やっているうちにだんだん夢中になってくる。ストレスなんか、ふっとんでしまう」
「いいわね、夢中になれるものがあるって」
「きみも、なにかやってるのかい」
「わたし………」
 笑ってごまかす彼女の表情がまた、なんともいえず魅力的だった。
 喫茶店をでた二人は、商店街をぶらぶらとおりぬけ、川べりの道をすすんでやがて広い河川敷におりたった。流れにむかって腰をおろす恋人たちの姿が、あちこちに点在していた。ぼくたちもひとりでにいまみた景色に同化するように流れをみおろす土手のうえにならんですわっていた。
 川面から吹いてくる風に頬をなでられながら、ぼくたちはことばすくなにすごした。なにもしゃべらなくても、ぼくの胸は幸福感にふくらんでいた。このままいつまでもいっしょにいられればどんなにいいだろうと心から願った。
 きゅうに空がかげり、つめたい風がふきつけた。いやな予感に、ぼくは橋の方に目をやった。するといま、階段から三人の男たちがおりてくるのがみえた。むこうへいってくれ。ぼくの願いもむなしく男たちは、まっすぐこちらにやってきた。このときだった、自分の空手を中途半端だと意識したのは。
 三人はぼくたちの後ろまできて、足をとめた。
「仲のいいことだな、おふたりさん」
 その声のひびきは、不快以外のなにものでもなかった。
「彼女、おれたちとあそばないか」
 ここまでいわれたらもう、ぼくはたちあがるしかなかった。男たちはぼくよりみな、頭ひとつ高かった。膝からはじまったふるえはいまや全身にまでひろがっていて、多分顔も真蒼だったのではないだろうか。
 男たちはそんなぼくなどほっておいて、彼女をとりかこんだ。
「やめろよ」
 ぼくは勇気のすべてをふりしぼって、男たちをとめようとした。とたんにひとりの男に突き飛ばされて、地面にしたたか肩をうちつけた。たのしかったひとときが一瞬にして地獄にさまがわりした。彼女があぶない。しかしぼくには、どうすることもできなかった。空手は、空手はどうしたのだ―――。
 ドスッという音とともに、男の呻き声がきこえた。つづいてべつの男の、苦しそうな息遣いがした。ぼくが顔をあげたそのとき、彼女の高々と蹴りあげた足の先が、まともに男の顎に命中した。ほかの二人は、それぞれちがう場所で、一人は腹をおさえてうずくまり、一人は仰向けに倒れて口から泡をふいていた。
 彼女はその場でくるりと回転して後方の男に足をとばした。後ろ回し蹴りがみごとにきまって男は、たまらず土手の下までころがりおちていった。あぜんとするぼくの目に、あわてて逃げ出す男たちの姿がうつった。
「だいじょうぶだったかい」
 それはこちらのいうセリフではなかったが、彼女はにっこりほほえみ、
「あなたの一喝で、かれたち、怯んだみたい」
 子供のころから中国拳法を修行し、いまでは教える立場だという話を、二度目のデートのときに彼女からきいた。ぼくとちがって、彼女は中途半端ではなかった。


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このストーリーに関するコメント

17/10/15 木野 道々草

とても楽しく拝読しました。読みながら、作者の方も楽しまれながら執筆されたのではないかと想像しました。「ぼく」は中途半端だったと語っていますが、中途半端だからこそ、二人が上手くいくような気もしました。

作中「わたしも、格闘技のファンなの」という台詞がありますが、作者ご自身もファンなのでしょうか。筆名はプロレス技が由来なのかなと思い…余談でしたらすみません。

17/10/16 W・アーム・スープレックス

おっしゃるとおり、格闘技のファンです。じしん、古武術をちょっびり習っています。暴漢を撃退する彼女のイメージ、ありありと思い浮かびました。筆名に関しては、このサイトがたちあがったとき、質問が目的で適当に選んだものが、いまにつづいています。おもえば、私も中途半端な人間の一人です。
ありがとうございました。

17/10/23 木野 道々草

先日は質問にご回答くださり、ありがとうございました。御礼が遅れ申し訳ありません。作品そのものを楽しもうとする一方で、時に、作品をきっかけに書き手の方へ関心が向いてしまいます。またそれが私にとって読むために必要な場合もあります。本作品も、思わず作者の方を想像してしまうようなお話だったので、筆名についてお聞きしたくなりました。改めて御礼申し上げます。

17/10/23 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
どうぞ、お気遣いなく。作品に興味をもっていただけることはなによりの喜びです。
座右の銘の『ぶっきらぼう』は、書上げた作品にたいして作者はいいわけしないといった意味ですので、今後もお気づきのことがあれば気軽におたずねください。
木野道々草さんの次回作、期待しています。

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