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蒼樹里緒さん

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性別 女性
将来の夢
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いろどり花見弁当

17/10/10 コンテスト(テーマ):第146回 時空モノガタリ文学賞 【 デート 】 コメント:0件 蒼樹里緒 閲覧数:228

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 昔から、弁当ってものにはあまり馴染みがない。小中学校時代は給食があったし、弁当を持つのは遠足とか運動会とか社会科見学とかの行事の時くらいで。母さんが俺のために手作りしてくれたのは、小学校の頃までだった。
 色々あって親父や母さんとは会話らしい会話もほとんどしなかったせいで、食事の思い出といえば、実家よりも従妹一家とのほうがずっと多い。俺と従妹の弁当を作ってくれたのは、叔母さんだった。家同士がもともと近かったのも、今思えば幸せなことだったんだろう。
 六歳離れた従妹が幼稚園に入ったばかりの頃は、よく近所の公園でままごとの相手もさせられた。俺も彼女も身体を動かすことが好きだったが、五・六回に一回くらいはそうして遊んでいたのを、今でも憶えている。
 ままごとといえば、男児が夫役、女児が妻役で、仕事帰りの夫を妻が出迎えて夕飯を一緒に食べるシチュエーションが定番らしい。俺たちの場合は、少し変わっていた。
 ある日、従妹は花見の場という設定でままごとをしたがった。叔父夫妻に連れられて行った、地元の広い公園での花見が思い出深かったのかもしれない。地元は街路樹にも梅が多く植えられているのが特色のひとつで、春に満開の桜を眺められる場所といえば、近場ではそこだけだ。
「おはなみのおべんとうが、すっごくおいしかったからね、ぼくもつくるの!」
 俺やほかの男友達とまざって活発に遊び回る経験も多かったせいか、幼い頃の従妹は自分のことを『ぼく』と呼んでいた。
 彼女はその日も、捨てられていた段ボール箱を器用に組み立て、小さい弁当箱みたいなものを作った。地面に敷いたレジャーシートにちょこんと正座し、横向きにした箱の左側半分ほどを、白飯代わりの小石で埋めていく。ぱらぱら、じゃらじゃらとそれらが鳴る音は楽器にも似ていて。従妹の楽しげな表情も相まって、俺も和まされた。
「おかずをつくるから、まっててね」
「ああ」
 言い置き、従妹は公園の植え込みや道端を物色しに行く。シートに胡坐をかいて待つ間も、俺は彼女から目を離さない。従妹の家から片道徒歩一分もかからない場所とはいえ、本人が怪我をしたり事故に遭ったりしては大変だ。
 やがて、従妹は何種類かの草花を抱えて戻ってきた。色とりどりのそれらを、段ボールの弁当箱に敷き詰めていく。
「できた。はい、めしあがれっ」
 満面の笑みで、俺の前に弁当を差し出す。完成品を見て、俺は思わず目を瞠った。
 黄色いタンポポ、赤紫色のツツジ、真っ白なシロツメクサ。鮮やかな花が、一面を覆い尽くしている。隅に細かく分けられた緑色の茎や葉は、きっと野菜代わりだろう。
「すげえな、ほんとに花見してるみたいだ」
 俺は素直な感想を言ったが、不覚にも語尾がかすかに震えた。ままごと弁当を見つめる自分の視界が、ぼやける。
 母さんの用意する食事は、愛情云々よりも義務的な印象が強かったから。叔母さんに作ってもらった弁当と同じくらい、従妹の込めてくれた真心が嬉しい。この弁当も、本当に食って味わえたらいいのに。
「どうしたの、どこかいたいの?」
 心配そうに訊く従妹に、手の甲で涙を拭った俺は、首を横に振った。普段の食事同様に、いただきます、と両手を合わせる。左手で弁当箱を持ち、右手で箸を使う仕草をして口に運ぶ芝居もした。
「おいしい?」
「すげえうまい」
 はにかんで笑い合う。
 近くの遊具で遊んでいる子どもの母親たちが、俺たちをふと見て微笑ましげに感想を言っていた。
「あら、デートかしら」
「かわいいわねぇ」
「ちがうよ、おはなみだよ」
 従妹の嬉しげな返答にも、かわいい、と彼女たちは褒める。
 男友達からも、デートか、なんて俺たちはからかわれることもしばしばあったが。俺も従妹も恋愛的な好意は一切持たないままだったから、ぴんと来なかった。むきになって否定することもしなかった。こうして二人で遊んでいても、気恥ずかしさや照れくささとも無縁だ。お互い、一緒にいるのが当たり前の感覚が身に着いていたのもあるだろう。
 今思えば、金のかからないほのぼのとしたデートに見える場合もあったのかもしれない。俺たちの関係性や家庭事情も知らない、赤の他人からすれば。

 生まれた時から実の妹同然に接してきた、大事な従妹。
 彼女が笑ってくれるのなら、彼女が元気でいてくれるのなら、ごっこ遊びにも喜んで付き合おう。
 必要なら、親も恋人も演じよう。
 これからも、俺はそうして生きていく。彼女を護り支えるために。


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