1. トップページ
  2. 金の財布・銀の財布

与井杏汰さん

突然思い立って短編小説を書いてみたくなりました。このサイトを知って、うれしく思います。

性別 男性
将来の夢 そこそこの健康と、そこそこの自由。
座右の銘 病は気から。

投稿済みの作品

0

金の財布・銀の財布

17/10/10 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:0件 与井杏汰 閲覧数:58

この作品を評価する

夕闇が徐々に空を侵食している。
吉島は人気のない公園で、退屈な1日の終わりを迎えていた。
宛もなく歩くと池の近くに来ていた。
ふと財布の中を覗こうとしたとき、手を滑らせ、くたびれた財布はあっという間に池に落ちてしまった。

 「ついてねぇな」
吉島が嘆くと、音もなく水が揺らぎ、中から女神のような若い女性が現れた。
 「あなたが落としたのは、この金の財布ですか? それともこの銀の財布ですか?」
彼女はそう語りかけてきた。
 『マジかよ』
心の中で叫んだ彼はこう答えた。
 「金の財布です」
女神は微笑むと、金の財布を渡し、池の中へ戻っていった。

吉島は勇んで池を後にし、暗くなった公園で街灯に照らして財布を開けてみた。
 「なに?」
思わず声が出た。中には、キャバクラや消費者金融のカード、外れ馬券、そして現金が110円しか入ってなかった。
 「馬鹿にしやがって!」
急いで池に引き返すと、金の財布を思いっきり水中に放り込んだ。
すると、再び女神が現れ涼しい顔でこう言った。
 「あなたが落としたのは、この金の財布ですか? 銀の財布ですか?」
 「俺が落としたのは黒い奴だ。早く出せ」
女神は水中から黒い財布を2つ出して、「あなたが落としたのは、この黒い財布ですか? それともこの黒い財布ですか?」と尋ねた。
吉島は、自分の財布とは逆の、高級そうな方を指さすと、「その分厚い方だ」と答えた。女神はそれを渡すと、また水の中に消えた。

 「今度こそ」
吉島は財布を開いた。そこには、噂に聞いた限度額が無いという黒いクレジットカード、どこかの会員証に、現金10万円が入っていた。しかもブラックカードはサイン欄が未記載で、吉島がそのまま使えそうだった。
 「こうでなくっちゃ」
彼は喜び勇んで街へ向かった。
ブラックカードで高級腕時計を買い、仕立ての良いスーツを探し、丈に会うものを探すとその場で購入して着替えた。
 「さて、飯かな」
歓楽街へ向かうと、寿司屋で好きなだけ食べ、高級クラブでホステスと好きなだけ飲んだ。

翌日、二日酔いで目が覚めた。昨日の事は夢だったのか? 慌てて財布を探すと、確かにあった。そこでふと気になった。財布の中の会員証だ。住所も電話番号も書いてない。一体何だろう? 悩んだ挙句、吉島はブラックカードのコンシュエルジュへ電話することを思いついた。
 「お問い合わせの件ですが、本日のご利用を希望されますか?」
吉島が「はい」と答えると、「それではお車を準備します」と、手際よく事が進んだ。

やがて高級車が到着した。昨日買った一張羅を着込むと、車に乗りこんだ。後部座席から見る景色は、吉島の知っているそれと同じはずだが、まるで違って見えた。車は郊外へ向かい、とある一軒家の前に着いた。車を降りて玄関を開けると、「ようこそ」と美女が出迎えた。「お食事はお済みですか?」と聞かれたので、「いや、まだだ」と言うと、奥の間へ通された。

座敷では高級な和牛が準備された。舌鼓をうち、用意されたワインを飲む。夢心地で時間が過ぎた。しばらくして最初の女性が出てきて「食事の後、ベッドをご準備できますが、お楽しみになります?」と聞いてきた。吉島は内心にんまりして「はい」と答えると、彼女は「それでは準備させていただきますが、会員様でしたら、こちらの内容についてはご存知と思います。すべてご承諾ということでよろしいですか?」と聞いてきた。吉島は「もちろん承諾です」と答えた。

ドキドキしながら待つと、やがて3人の女性が現れた。なぜか全員、仮面やマスクをしていた。
 「ようこそ」
その中の一人が言った。
 「あなたが今宵のパートナーに選ぶのは、こちらの金髪の彼女ですか? あちらの銀の王冠をつけた彼女ですか? それとも、黒髪の私ですか?」
吉島は興奮して、これが何かの暗喩になっていることなど気づかなかった。
 「それじゃぁ、黒髪の君」
指名された彼女はゆっくり歩いて吉島の手を引くと、扉を開けて、奥の部屋に案内した。

通された部屋で、吉島がベッドに横になると、彼女は彼の手足をベッドに縛っていった。「大人しくしてくださいね」という言葉に、淫らな連想はしたものの、この秘密クラブのサービスに興味津々な彼に、反抗する気持ちなどなかった。やがて彼女がお面を外した。
 「お、お前…」
そこに現れたのは、池で見た女神その人だった。
 「それでは、始めますね」
彼女は表情もなく言うと、彼のお腹の服を広げ、メスを取り出した。
 「何するんだ!」
吉島が叫ぶと、
 「ご承諾と伺っております。いただいた臓器は、必要とされる方に有償でお引き取りいただき、今日までお客様がご利用のカード代金と、本日のお食事代、お車代にあてさせていただきます。残金は、慈善団体への寄付となります」そう冷たく答えた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス