1. トップページ
  2. 笑う財布

和倉幸配さん

ショートショート好きが高じて、自分でも書いてみたいと思うようになりました。精進して、少しずつ上達したいと考えています。よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

笑う財布

17/10/09 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:0件 和倉幸配 閲覧数:93

この作品を評価する

 あなたは、世にも不思議な財布が存在するのをご存知ですか?
 どんな財布かって? それは、「笑う財布」です。
 「笑う」というのは何かの例えなどではなく、文字通り、笑うのです。声を上げて。
 僕がこの財布を手に入れたのは、今から十年くらい前、まだ独身だった頃のことです。
 当時の僕は、安月給でファッションに使うお金もなかったので、よく街の古着屋で洋服を買っていました。
 行きつけのその店で、小物の類を何気なく眺めていると、ふとこの財布が目に留まりました。
 何の変哲もない革製の財布でしたが、何故かどうしても欲しくなり、幸い値段も安かったので、買って帰りました。
 最初のうちは、特に何も起こりませんでした。ところが、ある休みの日のことです。暇を持て余した僕は、久々に競馬場にでも行こうかと思い、玄関で靴を履いていました。すると、何やら小さな笑い声が聞こえてきました。
 最初はテレビを消し忘れたかと思いましたが、見るとちゃんと消してありました。
 隣の住人の声かなとも思いましたが、よく聞くと、どうもその笑い声はすぐ近くから聞こえてくるようなのです。それも、自分の胸の辺りから。
 僕はジャケットの内ポケットを探って財布を取り出してみました。「ククク」という笑い声が、さっきよりもはっきり聞こえます。
 僕は驚いて財布を落としそうになりましたが、その途端、笑い声は止みました。
 空耳かな、と思い直した僕は、そのまま財布を内ポケットにしまい、競馬場に行きました。その日は、競馬でいくらか勝つことができました。
 それからしばらくして、僕が町を歩いていると、また笑い声が聞こえてきました。
 もしやと思い、財布を取り出してみると、「ワハハハハ」という笑い声が聞こえます。この間よりも少し大きい笑い声です。
 どうやらやはり、笑い声は財布から聞こえてくるようです。しばらくすると、笑い声は止みました。
 奇妙に思いましたが、まさか中身ごと投げ捨てるわけにもいかず、そのまま僕は歩き続けました。
 すると、道沿いのベンチに黒いカバンが置いてあるのに気が付きました。
 辺りを見回しても、持ち主らしき人はいません。カバンを持ち上げてみると、ずしりと重みを感じました。
 忘れ物かと思い、僕はそのカバンを近くの交番に届けました。
 すると、数日後に、持ち主が見つかったという連絡がありました。
 何でも、中身は銀行からおろしたばかりの現金で、その人が経営する会社の運転資金だったようです。僕はその人に大変感謝され、結構な金額の謝礼を貰いました。
 これまでのことを考えると、どうやらこの財布は、僕が何らかの臨時収入を得る時に、それを予知して笑っているようなのです。しかも、その金額が大きい時ほど、笑い声は大きく、笑う時間も長いようです。
 それからも、その不思議な現象は続きました。とはいっても、大きな臨時収入など滅多にありませんから、たいがいは囁くような笑い声でしたが。

 その後、僕は結婚しました。今はとても幸せな毎日です。
 ある日僕は、笑う財布のことを妻に話しました。そして、妻にこの財布を使うことを勧めました。
 あまりの突飛な話に、妻は半信半疑のようでした。何しろ古びた財布でもあり、妻はあまり喜びませんでしたが、私がしつこく勧めるので、渋々使うようになりました。
 ギャンブルもやらない妻に、いつ臨時収入があるのかはわかりません。ですが、いつか財布が本当に笑った時に、妻がどんな顔をするのかを想像するのも楽しいものでした。

 僕は今日も、夕食後に妻の入れたコーヒーを飲みながら、いつも通りソファでくつろいでいました。
 妻のコーヒーは、専門店で買った豆を使って入れてくれるので、とても美味です。ただ最近、豆を変えたのか、少し個性的な味になった気がします。
 僕は、疲れ気味なのか、このところ何となく体調がすぐれないので、そのせいでそう感じるだけかもしれません。
 そして、僕がコーヒーの最後のひと口を飲み終えた時です。突然、ものすごく大きな笑い声が聞こえました。
「ガハハハハハハハハハ……」
 僕は台所にいる妻の方を見ました。妻は驚いたというよりも、恐怖に慄いたような顔をしています。
 そして、その笑い声は、いつまでも、いつまでも続くのでした。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス