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事件をください

17/10/09 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件 いちこ 閲覧数:116

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とある週明け、困ったことが発覚した。
「事件がない」。
俺たち週刊誌編集部員にとって、これは大事件であった。
事件や事故について、新聞やニュースでは流さないような情報を集めているのだが、その事件や事故が起きていないのだからネタがないのだ。

編集長を含む俺たち五人は、ひとまずミーティングをすることにした。
「記事ができそうにないってことだが、本当にそうなのか?」
まず編集長が口を開いた。
「調べてみたのですが、しばらく大きな事件は起きていませんでした。また、過去の事件の掘り起こしも考えたのですが、落ち着いてしまった事件ばかりで、ちょうど良いものはありませんでした」
事件担当の山口くんが言った。俺たちも同意して頷くと、編集長は「うーん」と唸った。
「事故も調べたんだけど、みんな安全運転みたいで全然だね。悲惨な事故の何年後ってやつも、この時期ないんだよね」
ベテランの大石さんの言葉に、編集長は苦い顔をしている。次は俺の番だ。
「政治家も真面目に仕事してるみたいです。献金も不倫も法律違反もないし、国外情勢も安定してるので……」
「何でこんなときだけ真面目に働いてるんだよ!」
ついに編集長が声を荒げた。まあまあ落ち着いて、と宥めて、鈴木ちゃんに発言を促す。
「ごめんなさい。私も何もないです」
「何も!? 芸能人は何かあるでしょ」
「何もです。ちょっと外で目撃されたとしても本人がSNSで画像をあげてたりするので、記事にできるものがないんですよ。下手するとブログの転載かよって炎上しちゃいます」
完全に手詰まりだった。

話し合いは、〆切のぎりぎりまで続いた。
「どうするかなあ」
「連載マンガとコラムだけの号っていうのも珍しくて良かったりしませんか」
「買った金返せって言われるぞ」
「仕方ないし事件を起こすか?」
「そういうドラマか何かありましたよね、タイトル忘れちゃいましたけど」
「二番煎じか。じゃあ無しだな」
「炎上でも何でも覚悟で、適当な記事でっち上げます?」
「廃刊になりますよ」
「でも記事ないままでも廃刊の危機だよね」
「廃刊の危機って大事件ですね」
「俺らの人生かかってますもんね」
「確かにこれ以上ない大事件だな……。……よし、お前らこれで書くぞ。一冊埋められるように頑張ってくれ」
「おお!」
みんな疲れていた。
だから編集長の投げやりな決定にも疑問をもたず、「当誌廃刊!?」をメイン記事・サブ記事全てに用いた。
そして残り少ない時間で必死に書き上げた。

俺たちが我に返ったのは、印刷所に原稿を渡し、仮眠を取り終わった後だった。
一度休んで活動を再開した頭が、成し遂げてしまった愚行に対して警告を発していた。
「大石さん。俺たち、まずいことしちゃったんじゃないですか……?」
原稿を控えを手にして固まっている大石さんに声をかける。
「そうだね。何でこんなことしちゃったんだろうね」
俺たちの「「事件がない」事件」は、社内事件へと発展しようとしていた。


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