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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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消えた少女

17/10/09 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:4件 泡沫恋歌 閲覧数:209

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 山間の小さな村で十二歳の少女が失踪した。
 人口千人に満たないこの村では、ある宗教団体が全ての権限を握っていた。代々この地で生まれた美しい少女を姫巫女様(ひめみこさま)と呼び大事に育てる風習がある。姫巫女に選ばれた少女は、一生結婚することも村からでることもできない。ただ神様の審神者として神事を司るためだけに、一生を捧げなくてはならないのだ。
 失踪したのは、次の姫巫女に選ばれた神代亜矢(かみしろ あや)という小学校六年生の女の子だった。村の分校に生徒は五十人ほどしかいなくて、亜矢は特別扱いなので授業もたまにしか受けない。義務教育だから仕方なく通っているが、俗世界からは隔離された神殿の中で、現姫巫女とお付きの者たちとで暮らしていた。
 久しぶりに登校した亜矢は下校時、学校に忘れ物をしたと言い出した。「取ってきましょうか?」お付きの者が言ったが、自分で取りにいくからとすぐさま学校に戻った。そのままいくら待っても出てこない。学校中を捜し回ったが亜矢の姿はなく、翌日には山狩りまでしたが見つからなかった。
 二日目の山狩りの時、沢近くに亜矢のランドセルが落ちていて、下流では靴が見つかった。
 失踪、誘拐、事故の線で捜査するため、県警から刑事や警察犬がやってきた。

 そして僕は、この村の駐在所に勤務する二十七歳の警察官であります。
 今まで事件とは無縁だった村で、「駐在さん」と呼ばれる本官が一人で業務をおこない、独身者なので駐在所の二階に住んでいる。
とにかく、この事件は姫巫女様という信仰の対象で中心的存在だったから、村では大騒ぎになった。村人たちは姫巫女の「ご神託」しか聞かない、そこには警察力も届かないのだ。現姫巫女は七十歳過ぎの老婆で、自分の後釜として五年前に亜矢を養女にした。
 村の因習とはいえ、一生村から出ることも叶わない、姫巫女に成ることが本人の意思なのか、十二歳で人生を決められた亜矢はどんな気持ちなのだろうかと本官は考えてみる。
 村祭りで神楽を踊る姫巫女は、凛として神々しいほどの美しさだった。あの少女はどこへいってしまったのだろう?

 神代亜矢が失踪してひと月が過ぎた。なにひとつ手掛かりもなく、事件は迷宮入りしそうな様相だった。
 神殿では新しい姫巫女候補を養女にむかえたという噂が広まった。そうなると村人たちの亜矢への関心は一気に冷めてしまった。ご神託で、姫巫女不適合者として神に召されてしまったということらしい。
 そして本官も人事異動のためこの村を去ることになった。
 新しい駐在先はここよりずっと遠くの都会の町だ。そこでは住居を借りて暮らすつもりだが、ただ心配なことは最近買った大きな洋服ダンスが部屋に入るかどうかである。
 警察犬が駐在所の建物の前にくると、いつも激しく吠えるのには困った。何しろ、ここには神代亜矢に関する遺留品などが多く置かれているせいだと、そう説明すると県警の刑事たちも納得してくれた。
 二階の本官の住居に刑事が上がってくることはほとんどないが、中央にどんと据えられた大きな洋服ダンスを見て、「ずいぶん衣装持ちなんだね」と冗談をいう。そう、そこには僕の大事なモノをしまってあるから――。
 タンスは特別製で扉に付けられた鏡はマジックミラー、中から外がよく見える。しかも内側から施錠できるし、人ひとり隠れるのに丁度いい大きさなのだ。

 本官が神代亜矢と会ったのは一年ほど前だった。
 バイクで夜の巡回をしていると、神殿の外に人影が見えた。近づいてみると、少女が暗がりに一人で泣いていた。本官が事情を聞いてみると、姫巫女なんか成りたくない、この村を出て自由に生きたいというのだ。神事の修行は厳しく、殴られた痣が巫女服の下にたくさんあった。その後も亜矢の悩みを聞いてやるため、二人は隠れて会うことになった。
 状況を考えれば、姫巫女様と祀られてはいるものの、血の繋がらない母とお付きの大人たちに監視された囚われの身である。亜矢に村から連れ出してくださいと懇願された。本官もこの閉塞した村から救い出してやりたい思う。この美しい少女に本官は心を奪われてしまった。

 そして本官の異動が決まったひと月前、ついに作戦を決行する。
 学校に戻ったと見せかけて亜矢は山に入った、沢でランドセルと靴を捨ててから身を潜めている。日が暮れてからパトカーで亜矢を迎えにいき、そのまま駐在所の二階に身を隠していた。誰かきたらすぐに姿を隠せるよう洋服ダンスを置いた。
 灯台もと暗し、まさか失踪中の少女が駐在所の二階にいるなんて想像できないはずだ。
 引っ越しの日には、洋服ダンスに入った亜矢と一緒にこの村から出ていく、新しい町でふたりの新生活が始まる。
 十二歳の少女の失踪事件が、実は二十七歳の警察官とのかけおちだったと、この村の誰がしるだろう。


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このストーリーに関するコメント

17/10/15 霜月秋介

泡沫恋歌さま、拝読しました。

まさかの展開に驚きました。
本官が救い出さなかったら、少女は一生村に縛り付けられていたのですね。自由になれてよかったです。しかしその代わりにまた別の人が犠牲になるのですね(泣)

17/10/16 泡沫恋歌

霜月秋介さま、コメントありがとうございます。

事件といっても、殺人事件とかではなく、かけおち事件となりました。
それでも村では大事件ですし、この後、ふたりがどうなっていくのかも興味津々です。
姫巫女というのは、そうやって代々誰かの犠牲によって継承されてきた風習なのでしょう。

17/10/17 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、拝読しました。

横溝正史の小説に出てくるような舞台設定ですね。
そういった風習は、村をまとめるために昔の日本で実際にあったのではと思います。

17/10/24 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、コメントありがとうございます。

日本のどこかに、こんな閉塞された村があるのではないかと思います。
姫巫女というのは、伊勢神宮などにいた斎宮と呼ばれる宮家の姫君をモデルに考えました。
斎宮とは、一生独身のまま神仏に仕える高貴な巫女さまのことです。

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