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夜の異変

17/10/09 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件 みーすけ 閲覧数:53

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 私は走った。ひたすら走った。
 無駄だとわかっていたが、それでも走らずにはいられなかった。

 小一時間前、私は一人で夜の街路を歩いていた。仕事先からの帰り道ではなかったし、散歩に出ていたわけでもない。これには理由があるのだが、それは後で述べる。
 とにかく、私が歩いていると、ある事件が起こった。それは奇っ怪な事件であった。
 先立っていうと、まず、被害者はいない。その点は御安心いただきたい。昨今、痛ましい事件は多いが、これは、そういった類の事件ではない。まあ、被害者がいるとすれば、私自身だが、とくに怪我を負ったということもないので、御心配には及ばない。
 そしてもうひとつ。実は、犯人とか首謀者、そういったものも存在しないのである。誰かが事件を引き起こしたとか、テロリズムじみた事案とか、そういうものではない。
 それでいて、これは大事件である。そう、これは、人災というより天災に近い出来事である。
 事件のあらましはこうだ。
 私が立ち止まり、ふと見上げると、空一面が明るく光っていた。夜の真夜中である。雷雲などは空に出ていなかった。ほぼ晴天であったはずだ。何故、空が光っているのか? どんな現象が起きていたのか? それも次第に明らかになる。
 その時刻、空を見ていたのが私だけでないのは、明らかだ。しばらく光っていたから、他にも目撃者は多数いることだろう。彼らは一体何を思ったか? それは私の知るところではないが、私自身は、不思議と落ちついていた。何故か、そんなこともあるだろう、くらいに思っていた。考えてみれば呑気なものである。しかしそのときの私は、非常に、事を楽観的に見ていた。あれは、まあ、オーロラの一種とか、そういったものだろう。そんな風に。
 光は、数十秒ほど続いたろうか。やがてしだいに消えゆき、空は元の黒い海に戻っていた。
 私はまた歩き始めた。
 ここで、私が何故、深夜に出歩いていたかを述べよう。実は、夜中に目が覚めた私は、ある事情から外に出た。それは、のっぴきならない事情だった。絶対にはずせない用件だった。
 はずなのだが……その事情というのが、どうしても思い出せない。そんな重要な用事を何故忘れてしまったのか? 一体私は何故、そこを歩いているのだったか? 謎であった。
 私は、歩きながら、それらのことを思い出そうとした。空の光のことは、もう、意識から消えつつあった。だが、次に起きたことこそ、真に大事件と呼ぶにふさわしい出来事だったのである。
 UFOの類でも登場したのでは、と勘ぐる人がいるかもしれない。だが、先に述べたとおり、これは、天災の類であって、人為的な出来事ではない。宇宙人を人と呼ぶかどうかは置いておいて。この事件を起こした者がいるとしたなら、それは神である。
 先を続けよう。私は歩きながら、妙な違和感を覚えた。それは、何か尋常ではないことが起きている、という感覚。先ほどまでの楽観的な気持ちが、急に消えた。
 何かが、ある。今、私の頭上に、何かが、来ている。
 全身に鳥肌が立った。私は脂汗をかきながら、ゆっくりと、顔を上に向けた。そこに見たもの、それは――
 人間の、顔だった。
 そう、とてつもなく巨大な人間の顔。それが空の一隅を占めていた。その表情は読めないが、何か、ある一定の好奇心をもって、私を見ているようであった。
 私は、悲鳴をあげて走り出した。
 だが、逃げても逃げても、その顔は、上空を追ってくる。
 私は、恐怖のあまりおかしくなりそうだった。あまりに常軌を逸している。私は怯え、おののき、取り乱していた。
 そして、気づいた。
 あの顔は、私の心の中までも、見通している。私の考えは、あの顔に筒抜けなのだ。
 やめてくれ! どこかへいってくれ!
 それ以上、私を見つめるのをやめろ! 私の心を読むのを!
 わからないのか? あなたにいっているのだ。
 そう、そこの、
 あ・な・た。


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