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木原式部さん

文章を書いたり、占いをしたりしています。 時々、ギターで弾き語りもします。

性別 女性
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から揚げがない

17/10/08 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件 木原式部 閲覧数:139

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 今日は春香が待ちに待っていた遠足の日。お昼になって春香がお弁当箱を開いた時、その「事件」は起きた。
(から揚げがない!)
 春香がお弁当箱を開けると、弁当箱の右上の部分に何も入っていない。そして、お弁当の中をいくら見てもから揚げがなかった。
 春香はから揚げが大好物だ。一週間前から母親に「お弁当にはから揚げを入れて!」と言ってある。だから、母親がから揚げを入れ忘れることはないだろう。
 と言うことは、春香が目を離した隙に誰かがお弁当箱のから揚げを食べてしまったということになる。
(私のから揚げを食べたのは、誰?)
 春香は周りを見渡した。春香はお弁当箱を開く前に手を洗っていないことを思い出して、お弁当箱をビニールシートの上に置くと、友達と一緒に手を洗いに行った。誰かがから揚げを食べたとすれば、その時だろう。
「ねえ」
 春香は隣のビニールシートにいる同級生のグループに話しかけた。「私が手を洗いに行った時に誰か私のお弁当箱を触った人、いない?」
「ううん、知らない」
 同級生のグループは全員首を横に振った。
 でも、怪しい……と春香は思った。もしかすると、から揚げを食べた人をかばっているのかもしれない。
「何だよ、お前、弁当食わないのか?」
 男子が一人、春香に話しかけてきた。春香は男子を見ると「あっ!」と心の中で声を上げた。この男子、前に春香の給食のデザートのプリンを横取りしたことがある。
「ねえ」
 春香は目を吊り上げながら言った。「私が手を洗いに行った間に私のお弁当箱に触らなかった?」
「何だよ、触ってねえよ。そっちで鬼ごっこしてて、今来たばかりだよ」
 男子は急に弱気な口調になると、どこかへ行ってしまった。
 でも、怪しい……と春香は思った。鬼ごっこをしている間にこっちへ来て、お弁当箱の中のから揚げを食べることだって出来るはずだ。
「あら? どうしたの?」
 今度は担任の先生が春香に話しかけてきた。
 春香は先生に「私のから揚げがなくなったんです!」と言おうとしたが、言いかけて慌てて言葉を飲み込んだ。
 先生がから揚げを食べてしまった可能性もなくはない。先生ならいろいろな生徒のところ、つまりはいろいろな生徒のお弁当箱のところに行ってもそんなに怪しまれないはずだ。
「先生」
 春香は恐る恐る先生を見上げた。「私が手を洗いに行った間に、私のお弁当箱に触ったりしましたか?」
「えっ? そんなことしてないけど……。どうかしたの? 何かあったの?」
 先生は春香の突然の質問に戸惑ったような表情をした。
 先生も怪しいかも……と春香は思った。春香の言動に戸惑っているように見えるが、から揚げを食べてしまったのがばれたのではないかと戸惑っているようにも見える。
 春香はその後も何人かに声を掛けたが、から揚げを食べた人物を見つけることは出来なかった。
 春香は仕方なくビニールシートに座ると、から揚げの入っていないお弁当を食べ始めた。お弁当を食べながら少し涙ぐんだ。せっかく母親が自分のためにから揚げを作ってくれたのに、誰かに食べられてしまった。「から揚げ、美味しかったでしょ?」なんて母親に言われたら何て答えればいいのだろう? 春香はため息を吐いた。


 から揚げの件と遠足で疲れたのも相まって、春香は重い足取りで家に帰った。
 玄関のドアを開けると、なぜか母親が走って来て春香のことを突然抱きしめた。
「ママ、どうしたの?」
「春香、ごめんね。ママ、お弁当にから揚げ入れるの忘れちゃって……」
「えっ? から揚げ、ママが入れ忘れたの?」
「そうなの、ついうっかりして……。本当にごめんね」
 まさか母親がから揚げを入れ忘れただけだったなんて。あんなにいろいろな人に聞き回ったのに、自分のお昼の行動はなんだったのだろうか、と春香はまたため息を吐いた。
「そうだったんだ。私、誰かが食べちゃったのかなって思っちゃった」
 春香は食べ終えた弁当箱を母親に手渡しながら言った。
「やあね、春香ったら」
 母親は春香に渡された弁当箱を開けながら言った。「ほら、見て。ママがから揚げを入れようとしたお弁当の右上の部分、きれいでしょ? もし、から揚げが入っていたら、油とかから揚げの衣の落ちたのとかで汚れているはずよ」
 春香は母親に言われてお弁当箱を覗き込んだ。確かに弁当箱の右上の部分は汚れとかがなくキレイなままだった。
「本当だ!」
「まあ、小学校低学年のあなたにそんなこと悟るのは難しいわよね……。でも、本当にごめんね。お詫びに今度の日曜日にパパと三人で遊園地へ行きましょう!」
「本当? やったー! 遊園地!」
 春香はその場で飛び上がって喜んだ。もう、頭の中は遊園地のことでいっぱいで、から揚げのことなんてすっかり忘れている。春香は単純な女の子なのだ。


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