1. トップページ
  2. 痣を持つ子供達

浅縹ろゐかさん

本格的に創作活動を始めて、2年目になります。

性別 女性
将来の夢 ゆっくりペースでも良いから、何かを作れる人になりたいです。
座右の銘

投稿済みの作品

0

痣を持つ子供達

17/10/07 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件  浅縹ろゐか 閲覧数:268

この作品を評価する

 或る日、世界中で痣を持った赤ん坊が生まれるようになった。原因は、不明。痣の位置は様々であるが、命に別状は無い。母体も赤ん坊も健康そのものである。ただ、生まれつきの痣があるということ以外は。痣を持った赤ん坊が生まれたのはたった1年だけで、その後は生まれることが無かった。

 「如何です? 進捗の程は」
 そう訊ねてきたのは、上司であるタニウラ女史である。女性と男性が平等に働く様になり、女性も幾分か出世の道が開けてきた今日である。私の所属する部署では、痣を持った赤ん坊達の経過観察をすることが主な業務である。
「日本の、AブロックからCブロック迄は確認完了しています」
「成る程。其れが済んだら、一旦ミーティングをしましょう」
「分かりました」
 世界を大きくアジア・中東・東欧・欧州・北米・南米と分けて、其の中の各国を調査員が其々担当している。私は其の中の日本を担当して久しい。生まれつき痣を持った赤ん坊達は、今年14歳になる。私は其の赤ん坊達を、生まれたときから監視し調査をしている訳だ。一通り確認が済み、調査報告が完了したところでタニウラ女史へ声を掛ける。
「タニウラさん、本日の一次確認全て完了しました」
「ありがとう。では、早速ミーティングを始めましょう。アジアブロックを担当している調査員は、会議室Aへ!」
 フロアによく通る声の後、少しのざわめきが起こった。他のブロックを担当している調査員達は、訝しげな様子でタニウラ女史を見ていた。アジアブロックを担当している調査員達は、バタバタとミーティングの準備を始めた。

 「皆、忙しいところどうもありがとう。今日のミーティングの議題は此方になるわ」
 スクリーンに映し出されたのは、痣持ちの子供の死因についてという物騒な言葉であった。会議室内がざわめきで包まれるのを、タニウラ女史は片手を上げて制した。会議室は、シンと静まる。
「皆に調査して貰っている、痣持ちの子供達の中には既に亡くなった子供もいるわ。其れは皆知っているわね? そして、この14歳という年齢は子供達が不安定に陥りやすい時期……。此れも皆知っていることね。特に、アジアでは此れが顕著だわ」
 静かな会議室の中で、タニウラ女史の声はよく通った。手元の調査資料を捲りながら、自分の担当している日本の痣持ち子供達のリストに目を通す。其処には、名前と出生日と現住所と痣の位置が記されている。既に亡くなった子供には、棒線が2本引かれている。仕方の無い事かもしれないが、若くして亡くなった子供が年々増えていくのは胸が痛んだ。
「そして、今回皆に集まって貰ったのは……。痣の位置についての仮説が立証されたからです。この事は未だ他の地域担当の調査員には話していないので内密に。じきに、皆の知るところとなるので現場を混乱させないようにね」
 タニウラ女史はそう言って、スクリーンに次のグラフを表示させた。それは亡くなった痣持ち子供達と時期を表したものだった。グラフを見ると、3月と9月が特に多い様であった。夏休み明けと学年末かとすぐに合点がいった。それ以外に飛び抜けて多いのが、8月であった。
「痣を持つ子供達の中で痣の位置が、頭部に集中しているわ。これ迄様々な説が出てきては消えていったけれど、この痣の位置が死因となる外傷の位置と一致する事が分かりました。そして、たった1年の間だけ痣を持つ子供達が生まれた理由……。皆、今から凡そ100年前に起こった世界大戦の事は知っているわね? 聊か信じられないけれど、痣を持つ子供達はこの世界大戦で亡くなった人々の外傷死因と一致する事が分かりました」
 今から100年程前にあった世界大戦。それは、皆の知るところである。しかし、それが痣を持つ子供達の直接的な死因に関係しているとは聊か考えにくい事であった。限られた人員のみを読んだという事は、現場の混乱を避ける為……。調査員達は互いに顔を見合わせて、信じ難いこの仮説の立証に困惑するのみだった。手元の資料には、痣を持つ子供達の祖先で世界大戦で亡くなった人々の死因と外傷性を伴うものかを細かくまとめてあった。恐ろしい事に、それは全て一致していたのだ。
「この痣を持つ子供達については、引き続き調査を進めていきます。私は、痣を持つ子供達を1人でも多く救いたい。難しい事だとは分かっているけれど、若い命を死に絡め取られたくないの」
 死という途方の無いものに、立ち向かおうというのか。タニウラ女史の強い言葉には、何一つ嘘は無い。痣を持つ子供達を1人でも多く救いたいというのはタニウラ女史だけではなく、我々調査員も同じ思いであった。先の大戦の遺恨による痣という死への引導を渡された子供達は、生まれた時から死因も時期も決まっている。それを知らずに今を生きている子供達を守ろうとするのは、自然と言われるだろう。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス