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笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
座右の銘 生きているだけで幸せ

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財布の中には玉ちゃん

17/10/04 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:2件 笹岡 拓也 閲覧数:407

時空モノガタリからの選評

財布の中から話しかけてくれる十円玉の玉ちゃんと俺。二人のやり取りが、優しく心に響きました。彼にとって玉ちゃんは、小さな十円玉であっても頼りがいのある大きな存在なのでしょう。こんな仲間がいれば日々の生活が楽しく、また無駄遣いもなくなることでしょうね。モノとしては小さく儚い存在なのに、頼れて暖かいヤツというギャップに魅力を感じました。「俺は玉ちゃんに会えないことをこんなにも悲しく感じるんだ」という一文も印象的でした。失って初めて仲間の存在の大切さを痛感することって確かにありますね。素直で読みやすく、子供が読んでも楽しめるような作品ではないかと思います。

時空モノガタリK

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俺の財布の中には玉ちゃんがいる。玉ちゃんと出会ったのは半年ほど前だった。コンビニでお釣りを受け取った時にたまたま出会ったのが玉ちゃんだ。
玉ちゃんは見た目はそこらの十円玉と変わらない。しかし玉ちゃんには俺にしか聴こえない言葉を持っている。
はじめのうちは玉ちゃんが財布の中から話しかけてくることに嫌悪感を抱いていた。いちいち話しかけてくる玉ちゃんを手放そうとした時もあった。しかし財布の中で暮らす玉ちゃんが次第に愛しくなっていた。
「ちょっと無駄遣いしすぎだよ!」
「今日は卵買うんじゃなかったの?」
「今日は一度もお財布開けないの?」
「たまにはパーっと使ってもいいんじゃない?」
玉ちゃんは俺の財布を管理してくれた。使いすぎの時は厳しく、買い忘れていた時は教えてくれて。節約してる時は少し寂しそうに、俺が落ち込んでる時は元気付けてくれて。俺と玉ちゃんはまだ半年しか一緒にいないけど、二人だけの秘密の会話を楽しむ仲になっていた。
周りに人がいる時は話すことはしない。それは玉ちゃんが提案してくれた。
「僕と話してたら君はヤバイ人だと思われるよ?財布の中にある小銭に向かって話してる人見てヤバイとしか思わないでしょ」
確かに俺には玉ちゃんの言葉は聴こえるけど、周りの人には聴こえない。だから俺は玉ちゃんと話す時は周りに人がいないか確認してから話すようにしている。
俺は出勤する時はいつもイヤホンを耳にして出かける。時々玉ちゃんと話しながら出かけることもあるが、朝は音楽を聴いて出勤しないとどうもヤル気が上がらない。
そして俺はいつも会社の近くにあるコンビニで栄養ドリンクとオニギリを購入する。別に毎日買わなくてもいいけど、もうルーティンになっていた。
玉ちゃんにもルーティンを止めたら、もっと金が貯まるとアドバイスを受けている。それでも中々ルーティンは止められない。

そんなある日、俺はいつものようにイヤホンを耳にして出勤した。その日は電車が遅延していたため、時間がギリギリになっていた。それは分かっていても、やっぱり止められないルーティン。俺はコンビニに行って栄養ドリンクとオニギリを購入した。その日はラッキーなことにオニギリがキャンペーンで100円セールになっていた。だからいつもは300円ちょうどの会計が今日は280円だった。財布の中にはぴったり280円ある。俺は迷わず財布から280円を出した。
急いで会社に着いて、朝礼を行い仕事に取り掛かる。仕事も大事なプレゼン前だったため集中して取り掛かる。
気づけば夕方6時を過ぎていた。昼飯も朝買ったオニギリしか食べてない。ただどこかで飯を食ったら、また玉ちゃんに「無駄遣い!」と怒られるだろう。だから今日も家に帰って自炊しよう....あれ?
俺はこの時、血の気を引くというのはこういうことだと初めて知ることとなった。今日一度も玉ちゃんと話をしていなかった。いつもならトイレに行った時や自動販売機でジュースを買う時に話しかけてくるはずなのに。おかしい。俺は帰りの電車の中で財布を開く。
財布の中には小銭がたくさん入っていた。どれが玉ちゃんだろう。俺は必死に十円玉に向かって
「玉ちゃん?玉ちゃん?」
と話しかけていた。もちろん周りに人がいるのは分かっている。それでも俺は構わず玉ちゃんに声をかけた。しかし玉ちゃんは何も答えない。それもそのはず、俺は今朝コンビニでピッタリ小銭を出してしまったのだから。
そのことに気づいた俺はすぐに電車を降り、反対の電車に乗り込む。きっとあのコンビニに玉ちゃんがいるはずだ。俺は急いでコンビニに向かった。
俺は血相を変えてコンビニに入る。汗はダラダラだし息も荒い。きっと店員もヤバイ奴が来たと思ったに違いない。しかしそんなことを気にしてる暇はなく
「すみません。お店の十円玉に俺の大事な十円玉が紛れ込んでるんです。見させてもらっていいですか?」
と店員に頼み込む。俺の表情を見て店員は恐る恐る「どうぞ」と言ってくれた。
しかし玉ちゃんは見つからなかった。俺は店員に迷惑をかけたと謝罪しコンビニを出る。
もう会えないんだ。俺は玉ちゃんに会えないことをこんなにも悲しく感じるんだ。
トボトボ歩いて帰ったからか、家に着いた時もう夜8時を回っていた。

「おかえり!今日遅かったね」
ドアを開けた時、玉ちゃんの声が聞こえてきた。俺は部屋を見渡すが玉ちゃんの姿が見えない。どこにいる?
「ここだよ!下駄箱の下!」
下駄箱の下を見るとそこには玉ちゃんがいた。あれだけ探しても見つからなかった玉ちゃんが何故ここに?
「だって落としたのに僕のこと気づかないんだもん。大きな声で話しかけても君はイヤホンしてるから聴こえないし」
俺は玉ちゃんのことを握りしめた。不安でいっぱいだった俺は玉ちゃんに涙ながらに「ごめんね」を伝えた。


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このストーリーに関するコメント

17/10/07 のりのりこ

優しい主人公の表情が見えるような暖かい作品でした。日々の生活の中で普段忘れている大切なものを感じさせてくれる物語でした。

17/11/23 光石七

入賞おめでとうございます!
拝読しました。
とても優しくて温かいお話ですね。
日常に追われ荒みかけていた心が癒された気がします。
主人公と玉ちゃんの絆と素直な文体が魅力的でした。
素敵なお話をありがとうございます!

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