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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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金をくれ

17/10/01 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:169

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 じつは私も、犠牲者の一人だった。
 ことの次第は深夜のコンビニ、私がアルコール飲料をさがしていたとき、レジのほうから、「金をくれ」という、ざらついた男の声がきこえた。
 コンビニ強盗。国道沿いの、ちかくには交番もあって、まさかこんなところでと、私は緊張のおももちで棚越しにレジのほうをうかがった。
 レジ内にはひょろりとした体つきの店員が、恐怖のためかその場に硬直したように立っている。こちら側に、いまの声の主とおもえる、中年の男が背中をむけていた。
 もういちど、「金をくれ」の声がきこえた。こんな状況にあっても私は、そのいいかたに違和感をおぼえた。「金をだせ」が正解ではないのか。
 怯えた店員は、抵抗のそぶりひとつみせることなく、素直にレジをひらくと、札をとりだした。
 私が、警察に通報するべくスマホをとりだしたとき、男がきゅうに、その場であばれだした。なにごとかと目をこらすと、男のズボンの片側が、むくむくとふくれあがっている。ポケットの中でなにか小型の、獰猛な生き物でも大暴れてしいるふうにもおもえた。
 突然男のポケットから、黒っぽいものがとびだしてきたかとおもうと、店員にむかって身をひるがえした。長方形の角張ったそれは、店員が手にした数枚の札にくらいつくなり、はげしくその身を波打たせながら一気にくいつくしてしまい、こんどはあいたままのレジに飛びつきざま、そのなかの硬貨をはげしい音をたててのみこみはじめた。
 あれはいったいなんなんだ。好奇心が恐怖に打ち勝って私は、そろそろとレジのそばにちかづいていった。そこでは、店員と男が向かいあったまま、なかば茫然とたちつくしていた。かれらのその、不条理にいろどられた顔よりも私の目をひいたのは、きれいに空になったレジのなかで、満足そうに猫のように身をそりかえらせている財布のほうだった。
 それはチャック式の長財布で、いっぱいに開いたチャックのあいだから、ずらりとならんだ牙がのぞいている。そうみえたのは一瞬で、たちまちチャックはひとりでにしまり、財布は宙にとびあがりざま、こともあろうに私のズボンのポケットにとびこんできた。―――気がついたら私の体は、ポケットのなかのものにひっぱられるようにして、コンビニからとびだし、その勢いのまま、夜の町のなかにかけだしていったのだった。
 いったいなにが、どうしたのか、わけもわからず混乱する私は、ポケットの財布の強い意志にかりたてられるように、暗い歩道を一散に移動しつづけた。ポケットに手をいれると、財布から伝わる強力なエネルギーに、五指はたちまちはじきだされた。
 やがて前方に、コンビニ店の明かりがみえてきて、あんのじょう財布は私をその店にみちびいていった。そして数分後私は、さっき目撃したのとおなじ出来事をこんどは自分自身が演じようとしているのだった。ポケットの財布の意志は強烈で、私がどんなに抗おうとしても足は勝手にレジに向い、はやくも顔面蒼白の店員にむかって、「金をくれ」と喉からしぼりだすような声で恫喝しているのだった。
 私のものとはおもえない、ドスのきいた声に、若い店員はふるえあがってレジをあけた。とたんにポケットからとびだした財布が、草を食むヤギさながらレジ内の札や硬貨を、みるまにたいらげはじめた。
 財布の拘束から逃れるのはいまこのときをおいてないことに気づいた私は、財布がまだ未練たらしくレジにいるのをみとどけるやいなや、しゃにむにその場から逃げ出した。
 数百メートル全力疾走した私は、そのとき、こちらにやってきた酔っ払いにいきなり財布がとびかかるのをみた。色も大きさもさっきのとはあきらかに異なるその財布は、押し倒した男性のポケットからむりやり財布をすいよせると、チャックをあけてあんぐりとそれをまるのみにした。
 直後に、別の場所から女性の悲鳴があがった。みると、外灯の下で女性が、またべつの財布におそわれていた。いっときして、またべつのところで叫び声と、チャックのあく、するどい擦過音がひびいた。
 こうして人々から金を貪りとるたびに大きく変化しながら財布たちは、やがて一か所に集まりだし、さらに大きくまじわりあって、なにか得体のしれない巨大なものに様変わりしてゆく様子を、webに寄せられた大勢の目撃者たちによるコメントとたくさんのフォトによっていまではだれでもしることができた。
 寄り集まった財布たちは、その後も変態に変態を重ねたあげく、いまや巨大メガバンクとして都心のいたるところでみかけるようになった。
 さすがに、以前のように露骨に金銭を求めることこそしなくなったものの、いまなお人間相手にせっせと金を集めるその姿には、当時の牙をむいた財布のおもかげが、ちらと横切るような気がしないでもなかった。。


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このストーリーに関するコメント

17/10/15 木野 道々草

『私は財布』と一緒に拝読しました。どちらの作品とも、財布に口(や話す、食べるなどの口の機能)のイメージが結び付けられていたのが印象的でした。また本作品『金をくれ』は、どのような結末になるのか想像する余裕もなく、夢中で読んでいました。独白の語りに最後まで一気に引っ張られました。とても面白かったです。

17/10/16 W・アーム・スープレックス

眠っている猫を正確に描写した絵より、天を舞う架空の竜の絵のほうにリアリティーを覚えるとさる作家がいっていましたが、私もまた非日常の世界を描くと、逆に活き活きしてくるようで、言葉がはずむようにとびだしてきます。夢中で読んでいただいて、私もたいへんうれしいです。

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