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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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セブンティーンズバスジャック

17/09/28 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:274

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 右目の定期検診を終えて、寂しがりな思い出をひきずりながら病院内の喫茶店に入った。
「見えたところでそう言ってね」 
 ばあちゃんちの怖い日本人形と同じ黒髪をした女医先生が微笑んで言った。口紅の赤は落下した椿を想起させる。なんてね。当時幼稚園の僕の代わりに、映画的情景描写ってやつ。
「新幹線座りしてね」
 回転する丸椅子に正座で座ることを、なんで新幹線座りなんて言ったんだろうな。青い光を何度も追いかけた。
「目薬は目に入れるんだよ。面白い子だな」
 ううん、笑ってもらえると思ってやってたんだよ。

 喫茶店内のテレビはチャンネルがNHKに固定されている。何度かチャンネルを変えてくれと怒鳴るおじさんに遭遇した。「みんな我慢してニュース見てるのに、我儘なおじさんだね」
 そうだ、一度そう言ったことがある。
 あの日の僕にあった勇気は、母さんのハンドクリームに吸い込まれてしまったらしい。
 テレビが視界に入らない一番奥の隅の席に案内される。子供の頃の僕は必ずトーストとミックスジュース、それにアイスクリームを注文した。アイスに添えられたウエハースをベロにくっつけてブラブラさせても、母さんは僕を叱らなかった。片目の視力を失くした僕を、母がまた叱るようになったのはいつからだったかな。
「すいませーん、相席よろしいでしょうか」
 ん、お昼過ぎの喫茶店内はいっぱいなのか、自分と同年齢ぐらいに見える男の人が会釈している。
「構いませんよ。どうぞ」
「すいません」
 男は椅子に浅く腰を落として、ミックスジュースとトーストを、と注文する。あの日の僕か? と思ったけれど、それは僕だ。僕は、エビピラフとコーヒーを注文する。もう僕は、幼稚園や小学生じゃない。立派に三十路のど真ん中。
「目が、お悪いんですか」
 ん、相席はオーケーしたけれど、話しかけてくるタイプかぁ。
「ええはい。右目の視力がありません」
「それは、大変ですね」
「いえいえ、ものごころついてからずっとなんで、そんなに困りません。とびだす映画がとびださないぐらいなものです」
 鉄板のジョークなんだけどな。男は笑わない。
「僕は妻のお見舞いです」
 なんだ。自分の話がしたいタイプの人か。だったら実害はなさそう。病院だからな。一人が不安になるのはわかる。
「奥さん、どうされたんです」
「子宮筋腫で、不妊の原因になってる可能性があるかもしれないらしくて、手術したんです」
「それは、大変でしたね」
「いえ、簡単な手術らしいです」
「そうですか」
 ここで、会話がぴったりと止まった。男は波間に消えるカモメのように姿をくらまし、僕は仲間はずれにされた鬼ごっこの傍観者のように膝を抱えた。映画的スケッチってやつ。
「お待たせしました」 
 運ばれてきたピラフとコーヒー。バターが半溶けにスライドするトーストとミックスジュース。つい、アイスクリームを追加注文したくなっても大人だからやめる。もうたくさん食べたじゃないか。
「失礼ですけど」 
 男はおしぼりで手を拭きながら波間から姿を見せる。カモメは白くて海は青い。僕は何色のなに。
「はい」
「おいくつですか?」
「え」
「いや、自分と同じぐらいかなって思って」
 あぁ、同じことを思っていたのか。言葉にして踏み込んでくる分だけ、あなたは僕より大人ですよ。
「三十五です」
「あ、昭和五十七年?」
「えぇ」
「バスジャック犯と同じ歳ですね。キレる十七歳」
 僕の鉄板ジョークに笑わなかったから。僕も笑わないし、これはジョークにするにはトゥーマッチにシリアスだ。
「まぁ。はい」
 僕は男から視線を外してピラフのエビの数を勘定する。いち、にぃ、さん、しぃ……。
「僕は当時、高校を登校拒否してたんで、兄に言われました。『お前もバスジャックでもするのか?』って。酷いでしょう」
「はぁ」ごぉ、ろく、しち、はち……。
「あの時テレビでニュース映像を見て、今でも焼きついてますよ。あのでっかい牛刀。もしも、あのバスに乗っていたらって、今でもたまに考えてしまいます」
 鉄板ジョークが不発だったのに会話を弾ませようとは、ちょっと察しが悪い人だな。
「でもね、結果殺人までした犯人も、相当殺されたんだと思うんですよ」 
 きゅう、じゅう、じゅういち、あぁ。エビにも見放された。
「人はみんな、与えられたものを返しているだけですからね」
 僕はスプーンの中の僕を見る。見つめている間に、右目眼球はは上下に四回往復運動をした。
「どう思います?」
「え」
「あの事件、犯人、どう思いました。同い年として」
 僕はピラフとコーヒーを諦めようか迷いつつも、エビに諭されて答える。
「災難はバスに乗っていても、喫茶店でピラフを食べていても、運が悪ければ遭遇してしまうんだ、そう思います」
 男はハハハ、と笑った。


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