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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

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将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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こんなはずじゃなかった!

17/09/26 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:164

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 リンブルグ村のパブ『ロビン』の店主・ピートは、家庭用のマッチが足りないことに気がついた。そこで思いついたのが、一人息子のウォルター(5歳)の『はじめてのおつかい』である。「大根1本抜いたら、1円。ほうれん草は、2円」と野菜の引っこ抜きのお手伝いはしたことはあるが、一人で買い物はしたことがない。どこまで売り買いを理解しているものかも確かめたいので、ピートの実弟カレルと妻アメリーが営んでいる雑貨屋『ショコラ』に協力を求めた。
 そして翌朝──。
「ボク、カレルおじさん苦手なの。ちょっとイジワルなんだもの」
「お財布は持ってきたね?」
 頷いた彼は、お気に入りの小さな財布を、服のお腹部分のポケットから取り出した。ウォルターの小さな両手で包み込めるくらいの大きさで、ひよこ色をしている。格子模様の中で、赤いリボンを首に巻いた黒猫が、色鮮やかな鞠にじゃれついて遊んでいる、といった柄の異国から流れてきた美しいがま口の財布だ。女の子向きかもしれないが、ウォルターは気に入っているようだった。「黒猫さんじゃなくて、ひよこちゃんだったらよかったのに」と、この1点だけは不満らしい。彼は、財布を開けて玩具の50円玉を取り出した。
「まだ持っていたのかい?」
 そろそろ本物の10円単位のお駄賃を与えた方がいいだろう。ピートは、財布に50円玉と10円玉を1枚ずつ入れた。
「本物のお金を60円入れておくからね。『ショコラ』で、マッチ箱(中サイズ)1箱と切手2枚を買って、余ったお金で一番小さい飴を買ってもいいよ」
 ウォルターは、嬉しそうに元気よく出かけていった。
 それから20分後、彼は泣いて帰ってきた。話を聞くと、なにやらとんでもないことになったらしい。ピートは、順を追ってウォルターの言うことをノートに書いてみた。

『マッチ箱(中サイズ)1箱と切手2枚と飴1つをカレルおじさんに渡して計算してもらったら、70円になった。足りないと言われて、慌てて自分の財布を40円で買い取ってもらった。手元のお金を合計100円にして、70円の商品を買えた。手元に30円残った。さっき売った財布を取り返したくて値段を聞いたら、150円だった。40円で買い取ったのに、次に売るとき150円だなんてひどい。マツダイまでノロッテヤル、と言って帰ってきた』と。

「ウォルター、<安く仕入れて高く売る>は基本だよ。それから、カレルおじさんにきちんと謝りなさい。マツダイ……末代、って一体どこで覚えてきたんだか。さぁ、もう泣くんじゃない。ほら、120円あげるから、今あるお金と一緒にして、お財布を取り返しておいで」
 ピートは、ウォルターの背中にバンッと気合いを入れて、再度送り出した。そこでピートは思い出した。マッチ箱や切手を受け取るのを忘れていたことを。それに、飴はどうした?
 それから20分後、ウォルターはまた泣いて帰ってきた。
「ボク、お買い物キライ! おじさん、いじわる!」
「はいはい、何があったの? ノートに書くから順番に言ってごらん」

『合計150円のお金を持って、お店に行った。すると、カレルおじさんが、あの財布を180円で売りつけようとした。ウォルターは慌てて、ポケットに入れたままだったマッチ箱(中サイズ)1箱と切手2枚と飴1つを買い取ってもらった。70円だったのに、合計25円しかくれなかった。つまり、手元のお金の合計は175円。180円の財布は買い戻せず……』と。

 隣でウォルターは、覚えたての言葉「マツダイまで〜」と泣き叫んでいる。
「つまり、何一つ買って帰れなくて、お財布まで失ったという……」
 ここまで買い物下手だとは知らなかった。カレルが意地悪しようと思ったんだろうか? いや、そうではないような気がする。これは、真面目な商売なんだし。そもそも、何が原因でこうなったんだろう? ピートは、何度もノートに書いたウォルターの行動を読み返してみた。そうして見えてきたことが1つ。ピートは、恐る恐る息子に尋ねた。
「君、もしかして、飴は大きいのを買ったの?」
「うん。一番大きいやつ!」
 
──あぁ、ウォルター。お父さんは「一番小さい飴」と言ったよね?


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