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ちりぬるをさん

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ブーメランカムバック!

17/09/25 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:2件 ちりぬるを 閲覧数:208

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 よく意外だと言われるのだけれど、私が彼のことを怖いと思ったことは出会ってから一度もなかった。きっと外見よりも先にその人間性を知っていたからだろう。でも、彼に言わせれば私のような人は稀らしい。

「最初は小学生のときかな」
 一緒にランチでもどうですか? という彼の誘いで私達は職場の近くの定食屋に来ていた。昨晩家を出て十メートルも歩かないうちの警察に職務質問されたという話から彼の見た目で損をしたヒストリーが始まった。
「給食費の入った封筒が教室に落ちてて、それをたまたま拾ったんです。職員室に届けようとしたら先生を呼ばれて『寺田君が給食費盗んでます!』って」
 彼は笑いながら話していたが私は全然笑えなかった。大柄で目つきが悪く、生まれつき眉毛が薄い彼はその風貌から周囲に怖がられることが多々あった。私の友人に紹介しても「いい人だっていうのは聞いてて知ってるんだけどね……」とあまり評判は良くない。小さい頃からそんな目に遭っているのによくひねくれずに育ったなと感心してしまう。
「自分よく財布を拾うんすけど、お金だけ抜かれてるのって結構あるんすよ。それで届けてもお前が盗ったんじゃないか? って疑われちゃうんすよね」
「拾い慣れてたんだ」
「拾ってもらったのは初めてだったんすけど」 

 私は彼との出会いを思い出す。ある日出社前にビルの前で財布を拾った。遅刻ギリギリだった私は昼休みに警察に届けようとそれをバッグに入れて出勤し、そのまま忘れてしまった。思い出したのは夜帰宅してからだった。悪いと思いながら興味本位で中を見ると現金の他に家の鍵も入っていて、落とした人はさぞかし困っているだろうなと思った。警察に届けるよりも一緒に入っていた名刺に電話をかけようと思いついたのは本当に気まぐれだった。

 忘れていた負い目もあったので彼の最寄り駅まで届けに行きましょうか、という私の申し出を彼は丁重に断った。私の方に来てくれるというので近所のファミレスで待ち合わせることにした。
「本当にありがとうございます。家に入れなくてどうしようと思ってた所だったんです」
 私を見つけた彼は走って来たのか、額の汗を拭いながら私に深々と頭を下げた。
「お礼にならないかもしれませんがここは奢りますので好きなもの頼んで下さい」
「一緒に食べないんですか?」
 そう言うのでてっきりテーブルを同じくするのかと思っていたら彼が別の席に移ろうとしたので引き止めた。「だって嫌ですよね? 知らない男とご飯食べるの。自分こんなだし」顔のことを言っているのだろうことはすぐに分かったが、私は微笑む彼に不思議と嫌悪感は感じなかった。
「一人で食べるよりマシです」
 そう言って正面の席にメニューを差し出すと彼は申し訳なさそうにそこに座った。


 定食屋を出て並んで歩いていると彼が何かに気付いてしゃがみ込んだ。振り返ったその手には誰かが落としたのであろう財布があった。
「本当によく拾うんだね」私が驚くと彼は苦笑いを浮かべた。
「ちょっと交番寄ってもいいすか?」
 私は頷く。二人で中を確認すると彼の言っていた通り中身はカード以外空っぽだった。
 交番に財布を届け、「まだ時間があるけど」と私が言うと「じゃあ腹ごなししませんか?」とおもちゃ屋に連れて行かれた。発砲スチロールで出来たブーメランを買い、公園で遊ぶ。私の知っているへの字型のものではなくてUFOのような形のものだったがよく飛ぶしよく戻って来た。
「ねえ、なんで嫌な思いするかもしれないのに拾うの?」
 私が尋ねると「だって困ってるますよね? 落とした人。お金は入ってなくても大切なものかもしれないし」彼は当然のことのように言った。聞いた私が恥ずかしくなる。
「いつかさ、寺田君にすごい良いことが返ってくるといいね。ブーメランみたいにシュパパパーって」
「シュパパパー?」
「うん、良いことブーメラン」
 なんすかそれ、と彼が笑う。
「別に自分のとこじゃなくて財布が落とし主のとこにちゃんと返って行ってくれればそれでいいですよ」
 彼の投げたブーメランは秋空に弧を描いて同じ所へ戻ってくる。それを私がジャンプしてキャッチした。「それに……」彼が私を見ながら言った。
「いつかじゃなくてもう返ってきてますよ」
「え? なに? どういうこと?」
 もちろんどういうことかなんて分かっていたが彼をからかって問いつめる。耳まで真っ赤になって照れる彼を私は可愛いと思った。


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このストーリーに関するコメント

17/11/03 待井小雨

拝読させていただきました。
落とし物の財布を拾って始まる二人の関係が素敵です。
見た目に惑わされずに彼の優しさをきちんと見て共に過ごせる主人公も素直でいいなと思いました。
二人にはぜひとも幸せになってほしいです。

17/11/05 ちりぬるを

待井さんコメントありがとうございます!
なんか久しぶりに素直ないい子を書いた気がします(笑)この二人は間違いなく幸せになりますよね(^-^)

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