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瀧上ルーシーさん

twitter https://twitter.com/rusitakigami 破滅派 https://hametuha.com/doujin/detail/rusitakigami/

性別 男性
将来の夢 プロ作家になること。
座右の銘 犬も歩けば棒に当たる。

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呪われた財布

17/09/25 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:0件 瀧上ルーシー 閲覧数:219

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 先日、半年付き合った彼女と別れた。
 僕は特別女に縁がないというわけではなく、今までに付き合った彼女達で一番長く持ったのは八ヶ月だ。高校卒業後フリーター生活をしている男としては、毎回終わるとき結構長く持った方だと思う。
 一応彼女にふられたのだから、親の仕送りを使って親友と居酒屋で飲んだ。刺身も外で飲む酒も滅多にしない贅沢だ。
「お前の恋愛はエンターテイメント性がないから長持ちしないんだよ。たまには女を驚かせてやらないと」
 親友は無責任にそんなことを言った。もう酔っ払っているのか顔が赤い。僕は酒に強いのでまだ寒くならない秋だが、熱燗を早いペースで飲んだ。身体が火照ってくるので刺身の冷たさで身体を冷ます。
「毎回結婚を前提に付き合ってるのになあ。結婚生活にエンタメなんていらないと思うけど」
 親友はビールを飲みながら言う。
「だって結婚する前だろ。サプライズを用意してやらないと女は逃げるんだよ。安全男はだめだぜ」
「そうなのかあ」
 その日は早めに飲み会を終わらせた。近所の飲み屋で飲んだので歩きで帰れる。親友が千鳥足になっているので家まで送ってやった。そうして自分が住んでいる1K風呂トイレ付きのアパートまで帰ろうとする。
 何かを蹴り上げてしまった。なんだろうと思い街灯の下まで蹴って運んでそれを見ると、長財布だった。交番は遠いので明日以降に届けることにして財布を拾ってアパートへ帰った。
 歯を磨いてすぐにベッドに入ったのだが長財布が気になって眠れなかった。人の財布を勝手に見るのはよくないと思ったのだが、しっかり中身を見てしまった。カードもお札も小銭も入っていなかった。コンビニで飲み物を買ったレシートだけ入っていて、裏側の白い面にはボールペンで字が書かれていた。
「あなたは不幸になります」
 それを見た瞬間僕は、ドラクエの呪いの装備かよと思い少し笑ってしまった。しかも間抜けなことに不幸になりますと書かれた下には携帯電話の番号が書かれていた。
 夜遅いので失礼かもしれなかったが、呪われた財布なんかを落とす人の方が失礼なので、酔った勢いもあり僕はすぐさまその携帯の番号に電話した。
「もしもし」
 電話に出たのは女の声だった。
「財布拾って電話番号が書かれていたから電話したんですけど」
「本当ですか! ありがとうございます。近いうちに空いている日はありますか?」
 なぜ財布を拾っただけで他人と会わなければいけないのかよくわからなかったが、僕は答えた。
「明日一日暇ですよ」
「あなたはどこに住んでいるんですか?」
「輪似島市です」
「ああ! わたしもそこに住んでいます。明日の午前十時に猿の像の前で待ち合わせて会いませんか?」
 猿の像は地元の待ち合わせ場所のメッカだった。モトカノと別れたばかりで自分が冷たい男に思えてくるが僕は女の誘いを了承した。
 翌日はよく晴れた日だった。時間通り駅前にある猿の像まで行くと女は既に僕を待ってくれていた。女の特徴と名前は今日になってショートメールが送られてきたので知っている。彼女は木島綾子と言って、歳は僕より三つ上で今日はハイウエストのスカートを穿いていてカーキ色のブルゾンを羽織っていた。頭にはヤンキースのキャップをしていて、帽子からセミロングの茶髪がはみ出ていた。
 僕は軽く木島さんに挨拶をすると、レシートしか入っていなかった財布を返した。
「それじゃあ、僕はこれで」
「ちょっと待ってください! 早いですけどお礼に食事くらいはおごらせてください」
 朝食を抜いてアルバイトがない日なら早めに昼食を食べることが多かったので、一食代浮くと思うと嬉しかった。木島さんと二人で駅前のファミリーレストランに入る。
 木島さんはボロネーゼを僕はメンチカツとチキンのグリルの日替わりランチを頼んだ。それと木島さんは二人分のドリンクバーを注文した。
 昼食を食べ終わり、ドリンクバーのコーヒーを飲みながら話した。木島さんはぺらぺらと色々なことを喋った。家族がどうとか、仕事は僕と同じフリーターだとか、好きなアーティストや好きなユーチューバーのことを彼女はほぼ一方的に話した。
 そんなことより僕は聞きたいことがあった。
「なんで財布の中のレシートにあなたは不幸になります、なんて書いてあったんですか?」
 木島さんは気まずそうに沈黙した後で言った。
「彼氏と別れたばかりなの。別れた夜に財布の中にああいうことを書いて落としておけば誰かが連絡してきてくれると思ったんだ」
「……つまり新手の逆ナンパってことですか?」
「あながちそうとも言い切れないかな。財布を拾ったことでわたしに好かれる原因を作ってしまったのだから、それだけで不幸になったって言えるかもよ」
「いや……むしろ幸せですよ」
 新しい彼女ができる三分くらい前だと僕は感じた。


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