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風宮 雅俊さん

テーマに沿った物語を、どのくらいのレベルで書けるかな? と言う事で登録してみました。 アマゾンの電子書籍キンドルで作品出してます。こちらも宜しくお願いします。 ツイッター: @tw_kazamiya

性別 男性
将来の夢 世界一周の船旅で、船室に籠って小説を書く事
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魔法の財布

17/09/25 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:2件 風宮 雅俊 閲覧数:288

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 陽射しが強くなってきても風に冷たさが残る五月。平日の昼下がりの公園には、散策を楽しんでいる観光客ぐらいしかいなかった。
 老人はベンチに腰掛けると、街のざわめきを聞き入る様に目を閉じている。
 老人の隣には子供が座っている。子供はただ前を見ているだけだった。

「おや、気が付かなかったよ。いつから座っているのかな?」
 老人は、半分独り言の様に呟いた。
 子供は、ただ前を見ているだけだった。
「面白い話をしてあげよう。不思議な話と言った方が良いかもしれんがな・・・

 あの時も今日と同じ様な日だった。公園には綿あめを手にした子供が親に手を引かれて歩いていた。芝生の所ではお弁当を食べている家族もいた。周りには幸せが沢山あるのに自分の所にはない。お腹を空かせながら見ていたんだよ。そんな時だったよ、気が付くと隣に老人が座っていたんだ。今みたいにね。
 その老人が言うんだ。
『ぼうやも、綿あめが食べたいのかい?』
 顔を覗き込み、試すような目つきだったよ。そして、答えた、
『綿あめではないよ』
『では、何が食べたいのかい?』
 老人の覗き込む顔が怖かったけど、家族連れが食べているお弁当を指さした。
『ご飯を食べたかったのか、これは失礼。では、これを上げよう』
 老人が不思議な模様の彫られている財布をくれたんだ。でも、知らない老人から突然財布を渡されても、戸惑うばかりだった。
『この財布は魔法の財布でな、前の日に幾ら使っても幾ら残っていても朝には財布に一万円が入っているんだ。不思議だろ』
 不思議と言うより、毎日お腹いっぱいご飯が食べれると思った。空腹の前に戸惑いはすぐに消えた。おとぎ話の様なチャンスに心が躍ったよ。
『ホントに貰って良いの?』
 老人は満足そうに笑みを浮かべると、
『勿論だとも。でも一つだけ条件がある。財布の秘密を他の人に話すと魂を貰うからね。簡単な事だろ沈黙は金と言う事だ。若しくは一万円の対価だと考えてもいい』
 気が付くと老人はそこにいなかった。聞く事も返す事も出来なくなってしまった。

 結局、あの時に買ったのはアンパン一個だった。もっと食べたかったけど買えなかった。沢山買ったらお店の人に疑われると思った。何よりも家の人にバレたら折角のチャンスが取り上げられてしまう。魂を取られるより厭だった。
 その後も我慢だった。クラスメイトが新しい筆箱を自慢していても、新しい体操服を着てきても。汚いと言われても・・・・。ただ、いつでも買える余裕とこんな事で魂を取られたくないと思えた分、気持ちは楽だった。

 中学生になる頃には魔法の財布の事も良く分かった。使わなくても中身を抜いておけば翌朝には一万円入っていた。これで、お金を貯める事が出来る様になった。バイトをすればお金を持っていても疑われない。もっとも、バイト代の半分以上は家の人に取り上げられたけど魔法の財布があるから我慢できた。

 魔法の財布のお陰で高校にも行けた。大学にも行けた。嬉しかったよ。就職が決まった時に魔法の財布は誰かに渡そうと思った。でも、それは出来なかった。説明しないで渡したらきっと周りに自慢してすぐにその人は魂を取られてしまうだろう。だからと言って説明したら私の魂を取られてしまう。仮に説明して死ななかったとしても、貰った相手は約束を守れるだろうか?
 そう考えていた時に気が付いた。私が魔法の財布の代りになればいい。病弱の人に鍛えさせても健康にはならない様に、心の弱い人に自制心を求めても無理だからだ。

 貯めておいたお金で起業した。朝から晩まで休みなく働いて、少しずつ会社が大きくなって、賛同者も増えて行った。大変だったけど嬉しかったよ。沢山の人の役には立っていないけど、魔法の財布が救える人よりは多いと自負していたから。

 でも、秘密を抱えたまま生きていくのは大変だ。心のどこかで自分について来てくれた人たちを騙している感覚がずっとあるんだ。正直これより大変な事はなかった。
 結局、人間は弱い。隠し通すつもりでも、あの時と同じ舞台が設定されると口が動いてしまうものだ」
 子供は老人の方をじっと見ていた。

「さて、私の話はこれでお終いだ。財布は返すよ、これはお前さんのだろルシファー。約束だ、私の魂も持って行くがいい」
 子供が立ち上がると、十二の翼を持つ美しい天使の姿に変わっていた。
「君の勝ちだ。誰にも話さず人生を終えるからな」


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このストーリーに関するコメント

17/09/30 文月めぐ

『魔法の財布』拝読いたしました。
とても不思議なお話で、物語に引き込まれました。
秘密を抱えたまま、生きていくのはとてもつらかったと思い、胸が痛みました。

17/09/30 風宮 雅俊

文月めぐ さま

コメントありがとうございます。
昔話でもおとぎ話でも、秘密がばれて元の木阿弥。この基本ストーリーが出来上がって伝承される背景を考えた時に、これは変えた方がいい。
国語の教科書に出ていた「一切れのパン」によって主人公が手にした「もの」を別の角度で表現したい。
 この二つの思いで書きました。
ただ、不思議な力の対価の「秘密を守る」は、物事を他者と共有しない「孤独」でもあると思います。
ある意味とても残酷な話になってしまったと思っています。

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