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宮下 倖さん

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あしたの約束

17/09/25 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:2件 宮下 倖 閲覧数:650

時空モノガタリからの選評

時間のループによって繰り返される毎日。SF的な設定と高校生らしいドキドキ感がうまくミックスされて、爽やかで読みやすいストーリになっていますね。普段意識していない女子からであっても、毎日誘いを受けたならやはり意識するようになってしまうことでしょう。 変化しない日々は、安全で安心で、死ぬこともない永遠性そのもののはずですが、人間は変化と刺激を求める生き物なのかもしれず、このような固定した時間の枠の中ではやはり生きているという実感は持てないのだなあと思います。主人公の僕の(おそらく)受け身的と思われる生き方が、前に進めない時間のループを生み出していたのだとしたら、彼の姿勢はこれをきっかけてに変化していくのかもしれませんね。

時空モノガタリK

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 窓から見える空は鈍色、食卓には鮭と納豆、テレビの星占いは11位。
 いつもと変わらない朝。本当に、まったくなにも変わらず、同じ朝だ。
 昨日も一昨日もくり返した同じ一日を、俺はまた始めようとしている。
「いってきます」
 ため息まじりの俺の声に、母は「いってらっしゃい」と昨日と寸分違わぬ笑顔でこたえた。
 
 高校への通学路も朝のクラスの様子も、何度も観た映画のようだ。
 電車が五分遅れで駅に着くので学校までかるく走らなければならないし、昇降口で必ず転びそうになるし、田中は休みだし英語は抜き打ちテストがある。
 抜き打ちテストは(何度も受けているので)自信があるが、結果が返ってくるはずの「明日」が来ないので何点なのかわからない。
 おそらく、もう一週間はくり返している同じ一日。
 俺ひとりが陥っているらしいこの時間のループはいったいいつまで続くのか。
 もともとSF小説を好んで読んでいた俺は、最初こそパニックになったがすぐに状況を見抜くことができた。
 主人公が時間の無限ループにはまりこむ小説はたくさんある。彼らがそれをどうやって解決してきたのかも知っている。
 とにかくなにか、違う行動を起こす。意識的に違うことをして、同じ事象をなぞり続ける時間をずらしていく。
 でも、俺のループ世界はなかなか手強いようだ。少々の変化ではびくともしない。淡々と同じ朝を運んでくる。
 諳んじられるほどになった授業を終え、俺は放課後の教室にひとり残っていた。
 これから、この退屈な同じ毎日の中で、唯一の緊張感あふれる時間が始まるのだ。
「佐伯くん」
 机で頬杖をついていると由香子がおそるおそるといったように声をかけてきた。俺の心臓がひとつ大きく跳ねる。
「なに?」
「えっと……帰らないの?」
「ああ、うん……ちょっと」
 おまえが来るのを待ってたんだよとはさすがに言えない。
「あのさ、佐伯くん……明日、夕祭りあるの知ってる?」
「うん。知ってる」
 商店街の夕祭りのことはここで由香子から何回も聞いた。
「あっ……そしたら、ね。……一緒に行かない? 夕祭りに……」
 由香子の顔は真っ赤だ。俺の頬も熱いから、彼女から見たら赤くなっているかもしれない。
 それまで気にしていなかった同じクラスの女子だけど、こんなに毎日誘われて意識しないわけがない。彼女がすごく勇気を振り絞ってくれているのもわかる。
「いいよ。一緒に行こうか」
 俺がそうこたえると、うつむき加減だった由香子の顔がぱっと上がる。
 上気した笑顔で「ホント? じゃあ明日の放課後一緒に行こうね! 約束ね!」と早口で言うと弾むように教室を出て行った。
 明日の放課後、由香子と夕祭り。楽しみで心が浮き立つ。
 けれど、たぶん俺にその「明日」はこない。
 夜の間に時間は巻き戻されて、また同じ一日が始まってしまうのだろう。

 窓から見える空は鈍色、食卓には鮭と納豆、テレビの星占いは11位。
 やっぱり、とため息をついた俺は、今日ひとつ決心をした。
 今までもしかして、と思いながらもなかなか踏ん切りがつかなかったことを実行する。
 抜き打ちテストを白紙で出したりしたこともあったが、そんな小さな変化じゃ世界は揺らがなかった。
 だから、俺は今日、由香子の誘いから全力で逃げる。夕祭りの約束をしないようにしてみる。
 正直、あまりやりたくない。彼女のあの可愛い様子はそれこそ何度だって見たいと思ってしまうんだから。
 でも俺は一日由香子から逃げた。彼女の視界から逃げ、視線をかわし、同じクラスなのに口も利かず、放課後もとっとと帰った。
 由香子と夕祭りに行く約束をしなかった初めての夜。
 俺の心には大きな穴が開いて、その中をごうごうと風が吹きひどく冷えてしまったように感じた。

 快晴の朝、食卓にはサラダとハムエッグ、テレビの星占いは2位。
 電車は定刻通りに動いたし、昇降口でつまずくこともなかったし、田中は来たし英語は通常授業。しかも昨日の抜き打ちテストが満点で返ってきた。
 そう。「昨日」の、だ。俺は時間のループから抜け出せたらしい。
 やった! これで由香子と夕祭りに行ける!
 そう考えてはっとした。
 そうだ、俺は昨日、彼女と約束をしていない。
 教室で帰り支度をしている由香子のほうを見ると、彼女はさっと顔を逸らした。そりゃそうだ、昨日俺はさんざん彼女を避け続けたんだから。
 ループしている間、ずっと俺を誘ってくれた彼女の勇気を、俺は昨日ないものにしてしまった。毎日交わしていた約束を、存在しないものにしてしまった。
 今度は俺が動く番だ。
「由香子!」
びくりと肩を震わせて彼女がゆっくり振り向いた。
「あのさ、今日さ……」
 俺は由香子をまっすぐに見つめ、足を一歩踏み出した。


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このストーリーに関するコメント

17/10/11 待井小雨

拝読させていただきました。
作中ではループの明らかな理由は書かれていませんでしたが、主人公が約束をするべく「自ら動くこと」がループから抜け出すために必要だったのだろうな、と思いました。
二人が夕祭りに行く約束が果たされればいいなと思います。

17/10/26 光石七

入賞おめでとうございます!
拝読しました。
時間の無限ループという不条理の中で、由香子とのやりとりと主人公の思い・姿勢にリアリティがあり、微笑ましかったです。
抜け出した後の主人公の行動、拍手喝采ですね。主人公の変化・成長のためのループだったのかもしれないと思いました。
二人で夕祭りを楽しんでほしいです。
素敵なお話をありがとうございます!

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