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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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夢魔、ママになる

17/09/25 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:2件 あずみの白馬 閲覧数:761

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 私は夢魔。人間の夢の中に理想の人として現れて精気を吸い取り、それを糧として生きてきた。

 しかし最近、少子高齢化のせいでまともな食事にありつけず、今、ものすごくお腹が空いている。

 目の前のマンションの一室に、寝息を立てている15歳ぐらいの少年を見つけた。背に腹は代えられない。早速彼の夢の世界に入る。

 私はアパートの一室らしき場所にいた。外見は人間でいう三十代ぐらい。エプロンをつけて、まるで主婦。年上趣味なのかな? と思って、彼に近づく。すると私を見るなり、
「ママ、ママなの?」
 驚いた。ママと呼ばれることはめったに無いので彼の記憶を引き出す。名前はユウキ、父親は生まれる前に死に、母親も去年交通事故で死んで一人暮らし。親戚がたまに様子を見に来る程度だった。
 早速、口から出まかせを言う。
「そうよ。神様にお願いして、ちょっとだけ帰ってきたの」
「うれしい、帰るって約束守ってくれたんだね!」
 うまくいった。死んだ人の姿になったときは、たいがいこれでなんとかなる。
 私はユウキを抱き締めて精気を吸う。美味しい……。
「ごめんね、もう帰らなきゃいけないの」
「そんな、行かないで!」
 これは策略。ユウキがものすごい力で私をつかんできた。チャンス!
「仕方ないわね……、少しだけよ」
 ここで食事をしておけばしばらく困らない。
 その後、頃合いを見て出ようとしたのだが、その度にもう少しと言われ、彼の夢の中に三日三晩いる。もちろんたっぷりと精気を吸ったのだが、
「ママ、ごはんが美味しいよ」
「まあ、うれしい」
 ユウキにすっかり懐かれて、本当の母親になった気分。眠る前には子守唄も歌ってあげた。ところが、
「ママ、なんかダルいよ……」
 まずい、精を吸い尽くした!? このままじゃ彼は死んでしまう。
「大丈夫よ、今すぐ横になって」
 人間を殺してしまうと、天界警察に捕まって存在を消されてしまう。彼を回復させなきゃ。ところが、
「ママ、ママ……」
 彼は私に抱き着こうとする。
「今はダメ!」
 考えているうちに抱き着かれ、彼は意識を失ってしまった。すぐに捕まったのは言うまでも無い。

 警察署に連れられてすぐに、刑事の取り調べが始まった。
 中央には人では無く、青い水晶玉のような球体が置かれ、まるでどこまでも広がっているかのような空間に入る。
 私は、両腕に魔力を封じる手かせをされていた。

「それでは、事件のことを聞かせてください」
 無機質な女性の声が球体から聞こえてきた。
 色々と質問されたので、はいはいという感じで答える。どうせ消えてしまうのだ。ところが、刑事が感情的な口調で聞いてきた。
「ユウキくんにも別の刑事が話を聞いているのですが、彼はキミの処分を望んでいないそうです」
 え……? 私はおどろいた。
「夢の中で、子守唄を歌ったり、ごはんを食べさせたりしたそうですね。なぜそんなことをしてくれたのですか?」
「私を本物のお母さんだと思って、懐いてくれたのがうれしかったんです」
 人間の母親も、こうなのかなって思った。愛情なんてウソだと思っていた私がしてしまうのだから。
 と、そこへ、血相を変えた若い警官がやってきた。
「失礼します。ユウキくん、まだ死んでないようです! 銀の糸が肉体とつながっています」
 ユウキくんは生きていた! 刑事が続けるように言う。
「申し訳ありません、誤認逮捕でした。すぐに釈放します」
 うれしいけど不安がある。ユウキくんはまた一人になってしまう。
「あの、せめて本当の母親に会わせてあげることは出来ませんか?」
「それは無理。だって、私には会わせる顔がないんです」
 会わせる顔がない、ということは、この刑事がお母さん!?
「いったい、どういうことですか?」
「……、私は、上司と不倫していました。後ろめたくて言えなかったんです。事故にあった日は、出張って嘘ついて、すぐに帰るってユウキと約束して彼と旅行に行ったんです……」
 ユウキに隠れて、別の温もりを求めたことが、心に壁を作ってしまったようだ。それならば、と、ひとつの提案をした。
「あの、お願いがあります。私が母親がわりではだめですか?」
「え? あなたが?」
「はい、彼が一人じゃかわいそうですから」
 彼女はしばらく考えたのち、笑顔で答えた。
「ありがとう。あなたにならユウキを任せられそうです」
「もちろん、大切にしますね」

 ***

 あの日から1か月。
 私は姿もそのままで人間になり、お母さんの妹としてユウキを引き取った。と言うことになっている。
「あのね、お姉さん」
「なあに?」
「そっくり……、ママって呼んでもいい?」
「いいわよ」
「……ママ」
 彼を抱きしめると、自分が消えるより重い責任を感じるけれど、母親として頑張ろうと思った。


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このストーリーに関するコメント

17/09/25 のあみっと二等兵

拝読させていただきました。
本当の「事件」にならなくて良かったですね。
夢魔の中にある、本当は優しい心に触れた気がしました。

17/09/29 待井小雨

拝読させて頂きました。
夢魔が悪ではなく、優しさをもった存在であることに救われる作品でした。
ユウキくんと夢魔のあたたかな日常がずっと続いてほしいと思いました。

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