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みやさん

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若人の丘

17/09/24 コンテスト(テーマ):第143回 時空モノガタリ文学賞 【 約束 】 コメント:0件 みや 閲覧数:402

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「迎えに来てね、お婆ちゃん待ってるから」
「迎えに行くから、お婆ちゃん待ってて」
それが祖母と交わした最後の会話だった。

僕は住み慣れた家を離れ家族と別れて、”若人の丘”に入所する事になった。小高い丘の上にあるその建物は広く大きくて僕が通っていた大学に良く似ていた。若人の丘とは政府認定の若人向けの婚活支援の様な施設で、家族との接触は月に一度だけ電話のみのやりとりが許可されている。ただし祖父母との接触は一切禁止されていた。自分が婚姻して子供が授かるまでは。

婚姻率の下降と出産率の減少によりこの国は危機的状況を迎えていた。政府は婚姻と出産を推奨しているが、若者の婚姻と出産率は上昇する兆しが一向に見られず寧ろ徐々に衰退の一途を辿っていた。
老人の増加を支える若者の数が圧倒的に足りずに政府がある法律を定めたのは四十年程前の事だった。

ー国民人口増加法ー
通称国増と呼ばれるこの法律は二十五歳を迎える独身の男女が対象者とされていて、二十五歳の誕生日を迎えても独身の場合に適応となり、政府が各地に建設している若人の丘と呼ばれる施設に強制的に入所させられ、同時に対象者の祖父母も”老人の森”と呼ばれる施設に入所させられる。対象者は若人の丘で五年の間に婚姻対象となるパートナーを見つけ婚姻をし出産妊娠中でも可をしなければならない。タイムリミットは五年。対象者が婚姻が出来ずに子孫を残せないと判断されると、祖父母にはその時点で自然死と呼ばれる処置が施される事となる。五年後に対象者は元の職場に復帰出来るが、定年を迎えると自動的に老人の森に入所させられ自然死が適応される。元の職場に復帰後に婚姻すると対象者の老人の森入所は見送られるが、子孫を残せなければ定年後に老人の森入所が適応される

「俺はここに来てもうすぐ二年かな。婚姻も二回したけど、二回とも上手くいかなかった。次のパートナーはもういるから、そろそろ三回目の婚姻をしようかと考えてるんだ」
若人の丘で僕が入所した二人部屋に先に入所していた男性は不安だらけの僕を他所にとても落ち着いていた。
「え、もう二回も婚姻したんですか」
「二回なんか少ない方だよ。下手な鉄砲も数を打てば当たる的な感じで皆んな婚姻しまくってるよ。婚姻がゴールじゃなくてスタートだからさ。ゴールは子供を授かる事。だって自分の肩に家族の命がのしかかってるんだぜ?君もどんどん下手な鉄砲を打つ事だね」
数を打てば本当に当たるのだろうか?本当に好きだと思える人でなければ上手くいかないのではないのだろうか?僕が不安を助長させながら荷解きをしていると、部屋がノックされて一人の女性が中に入って来た。髪の長い綺麗な女性だったが、性格のきつそうな顔付きをしていて僕のパートナーには無理だなと一瞬で感じた。

「今日から入所よね?宜しくね。私はここに来て三年。婚姻は五回経験済み。どれも長続きしなかったけどね」
「五回…」
僕は無意識に生唾を飲み込んだ。食事にでも行こうとその綺麗な女性は早速僕を誘って来た。私には時間が無いのよと積極的で、女性慣れしていない僕はその迫力にたじろいだ。彼女は百戦練磨だよと言ってそれを見ていた婚姻二回経験者が笑った。

若人の丘での生活はとても快適だった。食事に娯楽にと充実していて僕達入所者は仕事もせずに思うがままに婚活と妊活に励む事が出来た。ただ少し寂しくて少し不安なだけ…
入所して初めての家族との連絡日がやって来たが、僕にはまだパートナーが見つかっていなかった。入所者の女性を片っ端から吟味してみたけれど、吟味すればする程誰を選べば良いのか分からないでいた。
「元気にしてる?」
「うん。元気だよ。まだパートナーは見つかっていないけど…」
懐かしい母の声を聞いて涙が出そうになった。母や父を将来老人の森に入所させたくない。そして既に老人の森に入所している母方の祖母と父方の祖母を約束通りに迎えに行ってあげたい。焦る気持ちと裏腹に僕の婚活は上手く進まない。
「お婆ちゃんがね、この間会いに行ったんだけど、元気だったわよ。あなたに心から好きになれる人がみつかれば良いね、って言ってたわ」

電話を切ると、待ち構えていたかの様にあの髪の長い綺麗な女性が僕に近付いて来た。僕が何度も誘いを断っているのに彼女は気にもしないで僕に誘いをかけて来る。なんてタフなのだろうと感心する程に。
「ね、今からDVDを一緒に観ない?」
僕は彼女に全く興味を持てないでいたけれど、その時彼女が口にした映画のタイトルを耳にして、俄然興味が湧いて来た。僕が好きな映画監督の古い映画のタイトルだったからだ。彼女が僕の嗜好を片っ端から調べあげてからのその映画だったのか、或いは全くの偶然だったのか…それを髪の長い綺麗な女性に確認してみたくなった。


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