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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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袋男事件

17/09/23 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:3件 クナリ 閲覧数:723

時空モノガタリからの選評

クナリさんらしい濃い世界観のつまった底知れぬ怖さに満ちたストーリーで、こういうホラーが、やはりうまいですね。「僕を救ってくれる異世界」という自ら作り上げた閉鎖的な世界に浸るために、袋を被るという奇妙な行動に走る少年。彼は一見狂人のようでありながらも、その「異世界」が簡単に壊れてしまう脆い幻想だと自覚しているわけで、そこからはまだかろうじて正常な判断力が存在していることが伺え、切ないものがありますね。最後、彼の目が、殺された三人と同様に「狂人」の目なのか否か、袋によって外側から判別不能にしたところ、モノガタリの仕掛けとして、うまいなと思います。手紙をわざわざ書き添えたのは、心のどこかで「異世界」が崩壊し、現実と向き合わざるをえなくなることを願っていたのでしょうか。一人称で書かれたクナリさんの多くの作品とはまた違い、ホラー作品では第三者的視点が感じられるために、凄惨な事件ながらも読みやすい内容になっているのではないかと感じました。

時空モノガタリK

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 ある晩夏の夜、私は新入社員ながら、随分遅い帰途についていた。
 駅から家までの道を歩いていると、街灯の少ない路地に出る。
 最近、近所で男子高校生三人が行方不明になる事件があったと聞いた。道の不気味さと相まってより不安が煽られる。
 道の先をふと見ると、二車線分くらいはある道路の左の塀沿いに、朧に人影が見えた。よく見えないが男性のようだ。こちらを向いて立ち止まっている。
 気持ち右側へ寄りながら、人影を通り過ぎようとしたとき、私は思わず悲鳴を上げかけた。

 その人は、頭に紙袋を被っていた。

 茶色の四角い紙袋。スキーマスクのように被っているので、顔は全く見えない。
 両目や鼻、口といった部位には穴も空いていなかった。これでは前も見えないだろう。
 私は足早に通り過ぎた。
 直後、物音がした気がして、とっさに振り向く。
 濃い暗がりの中、人影は身じろぎもしていなかった。
 しかし、違和感が生じる。
 通りすぎる前と同じシルエット。でも、何かがおかしい。
 そして気づく。
 ――男の靴の爪先がこちらを向いている。
 全身が総毛立ち、胃の底が絞り上げられる感覚に襲われた。
 ――振り向いている!
 紙袋に目鼻の穴がないので、すぐに気づかなかったのだ。
 私は、夜道を走り出した。必死で家まで走った。
 涙が出た。
 あれは明らかに異常な生き物だと、全神経が警報を鳴らしていた。

 翌日は土曜日だった。
 燦々と明るい午前、私は買い物に出た。
 店までの間には、あの道がある。恐怖はあったが、昼間ということもあり、通ることにした。

 すると、ちょうど昨日袋男がいた辺りに、何かが置いてあった。
 バスケットボールくらいの、紙製のゴミ袋が三つ。
 その下に紙片が挟んである。「昨日の人へ」と書いてあった。
 私は衝動的に紙片を開いた。中には、びっしりと手書きの文章が並んでいた。



 この手紙が昨晩の方に読まれるかどうかは分かりませんが、ひとまず書きます。
 随分驚かせてしまったことと思います。足音の感じからして女性ですよね。本当にすみませんでした。
 僕は近くの高校に通う生徒です。男子三人の行方不明事件が起きた高校です。
 僕はその三人に、ずっといじめられていました。彼らのやり口は巧妙で、暴力を振るうときは体に跡が残らないようにしますし、誰かに訴えようものなら必ず報復すると脅されていました。
 彼らは、全く狂っていました。
 彼らがのさばるこの世もおかしいと思いました。
 そこで僕は、この世界を変えたくなりました。
 世界の形を個人で変えるのは困難ですが、世界の感じ方を個人が変えることはできます。
 そこで僕の脳は、僕を救ってくれる異世界をイメージして、そこへ移民したのです。

 様々な異世界を想像しましたが、最も今の僕を救ってくれそうなのは、殺人が許される世界でした。
 僕の脳は喜んで、その世界の住人になりました。
 両親はあまり帰ってこないので、あの三人を順に僕の家に呼び出して、一人ずつ絞殺しました。殺人の隠蔽も無罪の工作もしなくていいのは、楽でした。

 昨夜、外の空気が吸いたくなり、家から出ることにしました。
 しかし生身のまま外出すれば、異界にトリップした僕の脳が、現実に引き戻される恐れがあります。
 そこで僕は、紙袋に目鼻の穴も開けずに被り、外に出ました。
 昨夜僕が立っていたのは、僕の家のすぐ表です。

 あなたが通りがかったとき、僕は迷いました。
 僕を変質者だと勘違いしたあなたが騒げば、僕の殺人に寛容な世界が崩れると思ったからです。
 通り過ぎたあなたへ僕が振り向いたのは、まさに、首を絞めようかどうか悩んでいたのです。
 しかしあなたは騒ぎもせずに去りました。僕も脳のトリップを保ったまま、安堵して家に戻りました。

 この三つの袋には、殺した三人の頭が入っています。
 両親がまだ帰らず、その袋も閉じている間は、僕の異世界は続いているでしょう。



 手紙を読み終えると、歯がカチカチと鳴った。
 今、この塀のすぐ向こうに、三人を殺した犯人が、三つの首なし死体と共にいる。
 そんなことがありえるだろうか。
 太陽が照り、近くでは小鳥が鳴き、母親と子供の声がどこかの家から聞こえてくる。
 こんな昼間に、そんな猟奇的なことが起きているはずがない。
 いたずらだ。手紙は全て嘘だ。
 そう思いながら、私は震える手で、紙袋の一つの口を開けた。

 私は悲鳴を上げた。
 彼の異世界は解けた。

 少年は、三人を狂人だと言った。
 赤黒い液体と固体の中で、黄色がかった眼球が、確かに狂人そのものの目で、袋の中から私を見上げている。

 少年の目は、同じように狂っているのだろうか。
 紙袋の奥の彼の目を、私はまだ見ていない。


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このストーリーに関するコメント

17/09/23 待井小雨

拝読させていただきました。
少年の書いた手紙に理性的な穏やかすら感じ、狂気と異常さが際立ちます。
これこそ私が読みたかった猟奇的なホラーだと思いました。

17/09/23 のあみっと二等兵

拝読させていただきました。
手紙の内容は異常なのに、綴り方が穏やか過ぎて、挙げ句に、自分がトリップした世界を壊すかいなかを問われている恐怖……
2000字でここまでの恐怖を与えられる素晴らしさにため息出ました。

17/11/13 光石七

入賞おめでとうございます!
遅ればせながら拝読しました。
夜道で袋を被った男に遭遇するだけでも恐怖なのに、手紙の告白でさらに別の恐怖が加わり、衝撃のラストへ。
やはりうまいですね。
特に手紙は落ち着いたソフトな綴り方と内容の異常さのギャップが際立っていて、「異世界」に執着する一方で現実に引き戻してほしい潜在的な願いも感じられ、秀逸でした。
素晴らしかったです!

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