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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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大事件勃発

17/09/16 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:130

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 はじめてこの町にやってきた日、僕は飲料水を買いにスーパーに入り、そこで万引きを目撃した。だぶだぶの服の太った女で、商品棚をゆききしては、品物を物色するわりには買うそぶりを見せず、もうそれだけであやしいと僕はにらんだ。はたして、女は洋酒の壜を手にとるなり、すばやく胸元にこじいれた。つづいて二本めもおなじく胸のなかに。ほかにもいろんなものを、ポケットにまた、下腹部にとつぎつぎとしのびこませていった。これはほっておけないぞと僕は、警備員をさがしにいった。
「あ、警備員さん」
「どうしました」
「すぐきてください」
 とにかく万引きの現場をみせようとして僕は、警備員をひっぱるようにして女のところにもどった。
 女はいま、となりの棚に移動していて、性懲りもなくそこでもまた、商品を盗み取ろうとしていた。
「ほら、あれ」
「あれって」
「あの女、万引きですよ」
「ああ、そうですね」
「そうですねって、商品を服の下に隠しているんですよ、はやく捕まえないと」
「捕まえるって、万引きは犯罪ではないですよ」
「ええ」
 警備員が本当に、万引き女をそのまま放置するのをみて僕は、ただただ困惑するいっぽうだった。
 女は服がぱんぱんにふくらむまで商品をつめこんだあげく、案の定レジはそのまま素通りして、平然とスーパーから立ち去って行った。
 わけもわからず僕が店をでてあるきだしたとき、突然悲鳴がきこえ、なにごとかとふりかえると、女性のバッグをうしろから男がひったくったところだった。
「ひったくりだ」
 僕はまわりの人に訴えるつもりで、大声をはりあげた。しかし、いまの犯行を見ていたにちがいないはずの連中は、そのまま顔色ひとつかえることなくあるきすぎてゆくのだった。
 それからも僕のまえに、不可解なできごとが矢継ぎ早におこった。
 宝石店の前をとおりかかったとき、目だし帽をかぶった二人の男が、鞄を抱えるようにして店から走り出てきた。店内をのぞくと、店員らしい女性が体をロープでしばられ、猿ぐつわをされてよこたわっている。宝石棚のガラスは粉々に砕かれていて、あきらかにいまの男たちは宝石泥棒にちがいなかった。
「泥棒だー」
 僕は通行人たちにむかって、声をかぎりにさけんだ。通行人の中に警官の姿をみとめると、
「おまわりさん、宝石強盗だ。ほらそこを、逃げてゆく」
 警官は僕にむかってうなずきはするものの、こともあろうに白い歯をのぞかせて笑っているではないか。
 この町はいったい、なんなんだ。目の前で事件が起こっているにもかかわらず、誰一人として何もしようとしない。僕は、呆れるをとおりこしてだんだん腹が立ってきて、とにかくおちつこうと思い、とおりかかったホテルにはいっていった。
 あてがわれた部屋は五階だった。僕はエレベーターをおり、五階の通路に立った。
 そこは、僕のちょうど隣の部屋だった。いきなり、胸を鮮血に染めた男の体が開くドアとともにどさりと通路に投げ出された。
「たすけて………」
 男はほとんど虫の息でそういうと、僕のほうに、腕をさしのばした。
 僕が恐怖におもわずあとじさったとき、室内から返り血を浴びて真っ赤になった女が、ナイフの柄を両手で握りしめながらあらわれた。その熱にうかされたような目にはもはや理性の光はかけらも見えず、手にした凶器でもはや見境なしに誰でも突き刺すかに思えた。
 僕はいそいで自分の部屋のドアを開けると、しゃにむに室内にとびこみ、うまれてはじめてまのあたりにした人が刺された現場の、そのあまりのまがまがしさに、ベッドに顔をおしつけこみあげる吐き気にけん命に耐えていた。
 そうしながらも僕は、いまにきこえてくるはずの、パトカーおよび救急車のサイレンの音を、いまかいまかとまちわびていた。
 いつまでたっても、それは聞こえてこなかった。
 ドアの外は、いまは静寂しかきこえなかった。フロントに電話をしなければと思いつつ、あいつぐ事件の連続に遭遇して、すっかり疲弊しきっていた僕は、そのままうとうと眠ってしまったようだ。
 はげしく叩くノックの音に、はっと僕が目をさましたのは、すでに翌朝のことだった。十数時間ぶっとおしで眠りつづけてきたことに対するおどろきよりも、なおも叩き続けるノックが気になってぼくは、ドアをあけに立った。
「大崎のぼるだな」
 両側に制服警官をしたがえた私服の男が、ぼくを声高に呼び捨てにして、一枚の紙切れをつきつけた。
「逮捕状だ。九時五十分、逮捕する」
「僕がなにをしたというのです」
「なにもしなかったことを認めるんだな」
「もちろん。僕は何もしてやしない」
「この町では、六時間以上事件をおこさないものは重罪とみなされ死罪か、無期懲役刑に処される」
 その旨がしるされた逮捕令状が、僕の目の前でひらひらとゆれていた。




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