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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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人が次々と死んでゆく。そして、ついに僕も……。

17/09/16 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:128

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グリーンゲート音楽院には、世界中から音楽においての天才児が集められている。中世ヨーロッパ時代の巨大な城を幾つも連ねているような重厚な建造物で、生徒たちのために用意されている楽器……例えば、ピアノの数は2000台もあるとの噂が流れている。音楽室の全てが、完全防音システム付きで、生徒は好きな時間に楽器を奏でることが出来た。ここは全寮制。クリスマスの時だけ、帰国を許されている。家庭の事情で、帰国しない生徒もいるが、僕はいつも帰国する。煩わしいのは、僕の帰国をどの生徒も哀しむことだ。教師たちまで大げさに哀しむ。いちいち「また戻ってくるのですから──」と説明するけど、これほど哀しまれると気味が悪い。理解不能な世界だ。僕が歩けば、後ろからぞろぞろと皆ついてくる。走っても逃げ切れない。だから、いつも安全地帯の音楽室に逃げ込むことになる。
「また追いかけられているんですか?」
アーサー・シュルツだ。中等部の1年生で、唯一あの集団のような異常な行動に染まっていない。僕とまともに会話ができる子だ。学院一の問題児ではあるが、この子がいてくれるおかげで、僕は孤独から逃れている。
「僕は、彼らに何もしていないはずだけど?」
この学院では、ちゃんと人間関係を築いていこうと意気込んで転入してきたはずなのに、また同じことになっている。アーサーは、僕の左腕をグイッと引っ張り、目の前のたまたま空いていた第105音楽室に飛び込んだ。
音楽室には、グランドピアノが1台と奥にその他の楽器も並べられていた。学院の創設者アプシャーの練習曲『鍵の歌』の1フレーズを示し合わせたように2人で歌うと、左右の防音扉の鍵が同時にかかった。もう安心だ。他の生徒たちは入れない。ホッとしている僕に、アーサーの小悪魔的な表情と声が、容赦なく襲いかかってきた。
「あんたは、内気で優しいリズまで殺した!」
「おい、僕は人を殺したことはないよ! 何を疑っているんだ? いつものように自殺だろう?」
 アーサーは、不満そうに口をひん曲げた。僕を、殺人犯にしたいのだろうか? この学院は、男女に関係なく、年齢にも関係なく、人が次々と死んでゆく。警察が調べても、いつも『自殺』との結論しか出てこない。
「自殺以外には考えられないと、いつも警察は同じ答えを出すじゃないか?」
 僕は、ピアノの椅子に腰かけた。
「よく思い出してよ、先輩。あの子……リズに何か言った?」
 アーサーの真剣な顏に、僕も真面目に考えてみることにした。彼の言う『リズ』って、いったい誰のことだろう? 短期間に多くの人が簡単に死んでしまうので、いちいち覚えていない。
「たぶん、告白されていつものように断ったくらい?」
 そのくらいしか思い当たらない。そういう理由で死ぬ人は実際いるようだけど、僕が交際を断った人の全員が自殺で死んだというのは有り得ない気がするし、もしそうなら非常に気味が悪いことだ。
「先輩が転入してからだよ、人が次々に死に始めたの。ボクだって、自殺だと思っていた。でも……」
 アーサーは、大きく息を吐いた。
「ねぇ、ボクは……ボクだけは、あんたと向き合って話しているのだけど……あのさ、けっこう神経に響くんだ。ボクは、こういうことに強い方だけど、ともかくあんたを観察してきて、あんたのせいだとやっとわかったんだ。だから、校長に話した。それで、あんた、ここを追い出されることになったよ。このままでは、この学院が潰れるからね」
 僕は、溜息を吐く。
「また転校かぁ、40回目だよ」
 アーサーは、鋭く切り込んだ。
「神か天使のように誰からも崇拝され愛されるように生まれた人の宿命ですか? めんどくさいもんだねぇ。でも、あんた自身は人が持つべき感情が欠落している。愛の告白をする人を何の感情もなく冷たく拒絶。結果、断られた者は神と天使に見捨てられたほどの大打撃を受けて自殺する。僕だって、初めは自殺だと思っていた。だけど、人間性のないあんたのせいだとわかった。あんたは、可哀相な殺人鬼だ!」
 殺人鬼? 可哀相な? 
「別に、自分を可哀相だなんて思っていないよ。ところで僕は、いつここを出て行けばいいんだい?」
 
結局、僕はグリーンゲート音楽院を出ていかなかった。僕は、転校直前に自殺したから。何故って? だって彼女、僕の愛の告白を断ったんだ。ルビーという名の、世界一可愛いバイオリン科の女の子。
アーサー、僕はいろいろとわかり反省もしたのだけど、1つ君のことで気がついた。君は、僕といる間だけ孤独から逃れられたんだ。学院一の天才児で問題児アーサー・シュルツ。愛されることに憧れていた君もまた、僕に囚われていた。それでも君は、僕に告白した。「愛してる」ではなく『可哀相な殺人鬼』だと。


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